読むべき本、見逃していない?

自衛隊に「中野学校」が復活していた!

  • 書名 自衛隊の闇組織
  • サブタイトル秘密情報部隊「別班」の正体
  • 監修・編集・著者名石井 暁 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年10月17日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書・200ページ
  • ISBN9784065135884

 なかなか骨のある強烈な本だ。『自衛隊の闇組織――秘密情報部隊「別班」の正体』(講談社新書)。自衛隊の中に秘密組織があり、海外でも活動しているという。

 著者の石井暁さんは1961年生まれ。共同通信の編集委員だ。94年から防衛庁担当記者になり、長年この問題を追いかけてきたそうだ。マスコミ報道の中でも飛び抜けて難度の高い取材ということになるだろう。

文民統制を無視

 共同通信は2013年11月28日の朝刊用に特ダネを配信した。書いたのは石井さん。「陸自、独断で海外情報活動」「首相、防衛相にも知らせず」「文民統制を逸脱」「自衛官が身分偽装」という衝撃的な見出しだ。陸上自衛隊の中に秘密組織、「陸上幕僚監部運用支援・情報部別班」(別班)があり、冷戦時代から独断でロシア、中国、韓国、東欧などに拠点を設け、身分を偽装した自衛官に情報活動させているというのだ。

 この「別班」は「DIT」(防衛情報チームの略)とも呼ばれ、数十人いるメンバー全員が陸自小平学校の「心理戦防護課程」の修了者。同課程は戦前、諜報や防諜を教育訓練していた旧陸軍中野学校の後継だという。ようするに、戦後の自衛隊の中に、極秘でいつの間にか「中野学校」のような組織が復活していたということだろう。

 原稿は配信先の国内31の新聞で一面トップになり、英語、中国語、ハングルで海外でも転電された。この記事で石井さんは二つのこと伝えたかったという。一つは、「別班」が政府や国会が武力組織の暴走を防ぐシビリアンコントロール、文民統制を無視しているということ。もう一つは、特定秘密保護法が成立すれば、自衛隊の広範な情報が秘密指定され、国会や国民の監視がさらに困難になるのは必至、ということだった。その後、同法は成立、2018年現在の「別班」の実態はまったく変わらないという。

「最低限、尾行や盗聴は覚悟しておけ」

 この記事を書いた後、石井さんは旧知の自衛隊関係者から忠告されたそうだ。「隊内の反響が、凄まじいことになっている」「最低限、尾行や盗聴は覚悟しておけ」「ホームで電車を待つ時は、最前列で待つな」。記事化したことで身の危険を感じることになる。冒頭で難度の高い取材と書いたが、取材相手の国家公務員から、こんな警告を受ける記者はまずいないだろう。

 「別班」のトップである班長は一等陸佐。陸上自衛隊の情報部門の出身者が務める。陸幕運用支援・情報部長の直属だ。班員は、陸自の情報部門関係者の中で突然、所属先などが分からなくなる自衛隊員だという。同窓会などに出ることも禁じられる。一種の非公然組織だ。

 こうした組織の存在は、過去に何度が話題になっている。おぼろげな記憶だが、かつては「二部別班」と呼ばれていたような気がする。本書でもいくつかの先行事例が紹介されている。1975年には、別班関係者から共産党の松本善明代議士宅に匿名の内部告発が届き、共産党が徹底調査、「赤旗」で連載し、のちに『影の軍隊「日本の黒幕」自衛隊秘密グループの巻』として出版されたこと、1980年に発覚したスパイ事件の主役、宮永幸久陸将補も陸幕情報部門の出身だったこと、また、2001年ごろから別班の関係者たちが次々と自らの経験を語り始め、それらも単行本になっていることなどを紹介している。しかし証言内容は1970年代で止まっており、その後どうなっているのか霧の中だった。

 石井さんの功績は、「別班」の近況を明らかにしたことだ。とくに「海外展開」の最近の部分が新鮮だ。確かに中野学校も、ルバング島の小野田さんのケースでも明らかなように、海外の活動に比重を置いていた。台湾の高砂族を組織してニューギニアなどでゲリラ戦を戦ったこともある。

「別班を関東軍にしてはいけない」

 どの国もこうした非公然的な組織を保持しているのだから、自衛隊に「別班」があって何が問題なのかと思う人もいるかもしれない。石井さんも、米国のCIAや英国のMI6の例を出しつつ、いずれもシビリアンコントロールが効いていると語る。実際、記事を公開してから、自衛隊の中では様々な反応があったという。石井さんに批判的な人ばかりではなかった。「独断で海外展開しているなんて・・・」と驚き、「別班を関東軍にしてはいけない」と危険性を指摘して取材に協力してくれた人もいたという。

 実際のところ、民間人に化けて海外で活動するというのは、いざというとき身の安全が担保されないので、きわめてリスクが大きい。内外でエージェントを使うわけだから、保秘が心配だ。ときどき中国などで日本人旅行者やビジネスマンらがスパイ容疑で捕まるが、こうした人たちは「別班」と何かつながりがあったのだろうかとも考えたくもなる。

 日本は2018年現在、海外の45の大使館と政府代表部に67人の駐在武官を派遣している。こうした「オモテ」の情報収集者との軋轢もあることだろう。政府は石井さんの記事が出たあとも、「別班」の存在を否認しているようだが、「日陰者」を強いられる班員には相当ストレスがたまっているに違いない。そもそもわずかな人数で、どれほどのことが出来ているのか。資金や予算はどうなっているのか。その詳細な実態について、いずれまた関係者の誰かがばらすことになるのかもしれない。

過去の教訓は生かされているのか

 本書は、単に「別班」の存在を明るみに出したというだけでなく、難度の高い取材とはどういうものか、厚い壁を突破するにはどのような取材をするのか、などいろいろと勉強になることが多い。また、過去の日本軍の様々な失敗や苦い教訓がどう生かされているのかも気になるところだ。

 BOOKウォッチでは中野学校関連で『陸軍中野学校と沖縄戦』(吉川弘文館)、『僕は少年ゲリラ兵だった――陸軍中野学校が作った沖縄秘密部隊』(新潮社)、『陸軍中野学校――「秘密工作員」養成機関の実像』(筑摩書房)、『日本軍ゲリラ 台湾高砂義勇隊』(平凡社新書)などを紹介している。

 また、戦前の機密活動については『陸軍・秘密情報機関の男』(新日本出版社)、『軍事機密費』(岩波書店)など、IT時代の情報戦については『スノーデン 監視大国 日本を語る』(集英社新書)、大手マスコミの難度の高い取材として『ルポ タックスヘイブン――秘密文書が暴く、税逃れのリアル』 (朝日新書)なども取り上げている。

 さらに自衛隊の隠蔽については『日報隠蔽――南スーダンで自衛隊は何を見たのか』(集英社)、軍人が抱える精神的なストレスについては『戦争とトラウマ――不可視化された日本兵の戦争神経症』(吉川弘文館)などにも注目してきた。

 共同通信編集委員の本としては、『写真で見る日めくり日米開戦・終戦』(文春新書)、『私が愛した映画たち』 (集英社新書)、『村上春樹を読みつくす』(講談社現代新書)なども読みごたえがある。

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