読むべき本、見逃していない?

マスコミ記者のレベルはピンキリ...では、ピンは?

ルポ タックスヘイブン

 2018年の新聞協会賞は朝日新聞の「財務省による公文書の改ざんをめぐる一連のスクープ」が受賞することになった。やや性格は違うが、本書『ルポ タックスヘイブン――秘密文書が暴く、税逃れのリアル』 (朝日新書)のもとになった報道も忘れてはならないだろう。取材の難度が飛び抜けているからだ。

ただちに違法ではない

 何しろテーマがタックスヘイブン。国際的な税逃れだ。秘密文書を入手して解読、さらに世界各国に足を運んで嫌がる関係者にアタックし確認、という面倒な手順を踏まねばならない。そのすべてがきわめてハードルが高い。日本の記者がここまでやるのは常識的に考えて至難だ。ひとくちにマスコミと言っても、ピンからキリまであるが、本書のもとになった「パラダイス文書」の取材を担当した記者はあきらかにピンの方に属するといえる。普通の記者なら、取材班に放り込まれても身動きが取れないだろう。

 昔なら、こうした追及は国税当局や検察がやって、その成果をマスコミ各社で奪い合ってスクープ合戦、という流れだったはず。それを自力でやろうというのだから大変だ。公的機関なら公務だが、マスコミは私企業。コスト面でも合わない。そうした面倒なことをやった記録が本書ということになる。

 一部の中米諸国が国際的な税逃れの場所になり、日本の企業や富裕層も利用している、という話はよく知られている。とにかく相手は国家を挙げて特殊な税制で税逃れに手を貸している。各国の税制の違いをベースにしたビジネスだから、ただちに違法ではない。外国の取材陣が探りに来ても、顧客のことを考えれば簡単には口を割らない。普通の記者なら取材しろと言われてもギブアップだ。そんな事情もあって長年タックスヘイブンの話は厚いベールに包まれてきた。

朝日、共同通信、NHKの3社が参加

 ところが2016年の「パナマ文書」で、頑丈な金庫の扉がこじ開けられる。何者かが中米パナマの法律事務所が保管している内部資料を、南ドイツ新聞に電子データで送りつけたのだ。過去40年間にわたる1100万件以上の情報が詰まっていた。南ドイツ新聞はそれを国際調査報道ジャーナリスト協会(ICIJ)に提供、各国で報道され、大騒ぎなった。

 本書はその第二弾で、今回はバミューダの法律事務所からの流出だ。「パラダイス文書」と名づけられた。入手したのは同じく南ドイツ新聞。再びICIJに情報がもたらされ、67か国の96報道機関、日本では朝日新聞、共同通信、NHKが加わった。

 ここでまず押さえておかなければいけないのは、ICIJという組織のことだ。現在70か国200人以上のジャーナリストが参加しているそうだ。コンピュータの専門家・公的文書の分析家・事実確認の専門家・弁護士らが協力し、米国に事務所がある。活動資金は個人・団体からの寄付金で賄われている。

 「パラダイス文書」は、「パナマ」よりも流出元の法律事務所が格上で、米国に絡む情報も豊富だった。また、関係者間のメールのやりとりも含まれていた。

 各国の関係記者が一堂に会したのは17年3月の一度だけ。ニュースの解禁日は米国東部時間で11月5日午後1時と決められる。それまでが取材期間となる。

暗号メールでやりとり

 朝日新聞の場合、社内にチーム用の小部屋があてがわれた。何をやっているかは秘密だった。やりとりには暗号メールが使われたという。最近、『権力と新聞の大問題』(集英社)を読んで、米国の敏腕記者は「暗号SNS」で取材していることを知ったが、日本でも行われていたわけだ。

 解禁日が近づくにつれ、膨大なデータや取材をもとに、どのネタをトップ候補にするかも決まり、当該法律事務所の言い分を聞く質問状も送りつけられる。このあたりの刻々とした動きは、過去のマスコミ取材とは全く異質だ。世界の報道機関の連携、外国の電子データの分析、暗号による連絡など、国内の大半のマスコミにとっては未経験の世界といえる。

 特に興味深いのは、この取材で朝日、NHK、共同通信の3社が連携したということだ。前回の「パナマ」では朝日と共同。今回はNHKが最初から入っている。朝日にはICIJでの取材歴が長く、本書も執筆している奥山俊宏記者がいる。共同は普段から海外の通信社と連携している。NHKの場合は、Nスペのパワーが抜きんでている。3社の分担や協力の様子も鼎談で紹介されている。このあたりは同業他社にとってはいちばん関心があるところだろう。

 BOOKウォッチで紹介した、自衛隊PKO問題を扱った『日報隠蔽』(集英社)は朝日新聞の三浦英之記者とフリーの布施祐仁記者の共著だった。J-CASTの著者インタビューで、三浦記者はフリーと大手メディア記者との立場を超えた連携などを語っていた。かつては考えられなかったことだが、本書も含め、こうした様々な形でのマスコミの連携取材は、メディアの新時代をうかがわせる。読者としてはどんどんやってもらいたい。

  • 書名 ルポ タックスヘイブン
  • サブタイトル秘密文書が暴く、税逃れのリアル
  • 監修・編集・著者名朝日新聞ICIJ取材班 著
  • 出版社名朝日新聞出版
  • 出版年月日2018年4月13日
  • 定価本体920円+税
  • 判型・ページ数新書・416ページ
  • ISBN9784022737618

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