大人の発達障害とされるアスペルガー症候群では、特色ある能力を持ちながら周囲の人と協調することに思いがいたらずコミュニケーション不全に陥り、孤立を深めることがしばしばあるという。本書『見えない違い』(花伝社)は、当事者の経験をマンガで物語化したもので、問題の解決法を提案する一冊。他人との「違い」に悩む人たちにとってはもちろん、「違う」人の存在に戸惑っている人たちにとっても、世界観が変わるきっかけになる可能性を秘めている。
本書は、仏語圏のマンガのタイプの一つである「バンド・デシネ(BD)」として2年前に出版されたものの翻訳版。原題は「La Différence invisible」で、その訳が邦題になっている。BD作品は技巧を凝らしたフルカラーが特徴で、アートとしても評価される。本書では、モノトーンのなかにアイテムを限って色を付けたり、ページやコマごとに配色を変えるなどの視覚的な演出が施されおり、ネガティブな内容のシーンをソフトにしたり、明るいシーンをさらに盛り上げたりする効果を発揮する。
物語の主人公マルグリットは不動産会社に勤務する27歳の女性。イヌやネコのペットに囲まれマンションでボーイフレンドと同棲生活をしている。一見したところでは、その日常は普通なのだが、習慣が守れなくなると居心地の悪さを感じ、不意の出来事にはうまく対応できない。感覚過敏で騒音に悩む様子は少々異常だ。いわゆる空気が読めないタイプで、会社の同僚や上司、同棲相手ともギクシャクすることが多い。マルグリットは原作者ジュリー・ダシェさんの分身という。
「見えない違い」を自覚し始めたマルグリットは、それを確認するためネット検索。すると自分とよく似た状態の報告が見つかり、自分が自閉症かアスペルガー症候群らしいと気付く。実は以前にも専門医らに診てもらったことはあったのだが、その結果は、神経質でストレスを感じやすいからといったような内容で、自らもそう思い込んでいた。その後の検索で、信頼できそうな精神科医を見つけ改めて診察をしてもらうことに。診断は、アスペルガー症候群の可能性が高いというもの。「違い」の原因が分かったその日から、マルグリットは新しい人生を歩み出す。
自分が「アスピー」と分かってからのマルグリットは、マンガのなかでも表情がそれまでとは全く違ったかのようにイキイキと描かれる。会社を辞め、書物に囲まれる研究生活に入り社会心理学博士を目指す。
原作者のダシェさんのプロフィールには「社会心理学博士。27歳のときにアスペルガー症候群と診断された。現在、さまざまなメディアに出演し、講演活動を行なっている」などとある。
本書によると、自閉症に関してフランスは「40年以上遅れている」という。自閉症の子供に対する差別、教育施設の不備、専門家育成の遅れを理由に欧州評議会から2004年と14年の2度にわたり非難されるほどだ。「自閉症は病気ではない。神経発達の一障害。症状の中には時間が経つにつれ軽減するものもあれば悪化するものもある。とはいえ、学習することが可能で、子どもたちの就学が必要不可欠」と訴える。自閉症の子どものフランスでの就学率は20%にとどまるのに対し他の先進国では80%に及ぶという。
世界保健機関(WHO)はこの6月、国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)を公表。現行のICD-10への改訂(1990年)以来、約30年ぶりの改訂だが、このなかで、自閉症とアスペルガー症候群を「自閉スペクトラム症」として統一。厚生労働省はわが国での適用に向け検討するとしている。この変更は、本書の「自閉症はスペクトラム(連続体)を形成しており、症状も人の在り方も実に多様」という指摘に沿うような感じがする。自分の「見えない違い」、他人の「見えない違い」が気になる人はまず、このマンガで気軽に確認するのはいいオプションではなかろうか。
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