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吉永小百合さんと美智子さまの対談を読みたい

私が愛した映画たち

 読みだしたら止まらない本だ。『私が愛した映画たち』 (集英社新書)。なにしろ、あの吉永小百合さんが、これまでに出演した映画や共演者、監督らの思い出や裏話をたっぷり語っているのだから。

 「こんなにお話ししたのは初めてです」というキャッチコピーが付いている。たしかに、その通りだろう。意外な一面も明かされているから、サユリストはもちろん、サユリストでなくても楽しめる。

「赤胴鈴之助」の子役から始まった

 吉永さんは最近、「北の桜守」の公開に合わせてあちこちのメディアに登場している。テレビのマツコ・デラックスさんとのやり取りは特に話題になった。この3月13日に73歳になったとは思えない若々しさ。「美しすぎる」「かわいい」と、10代女子の間でも人気なのだそうだ。

 いうまでもなく吉永さんは日本映画界を代表する大女優だ。出演映画は120本。歌手として紅白にも何度か出た。テレビドラマ「夢千代日記」の印象が強烈な人もいるだろう。長年、原爆詩の朗読を続け、しばしば反戦平和への思いを新聞のインタビューなどで語ったりする硬派でシンの強さを感じさせる一面もある。

 芸能界入りのきっかけは、小学校6年生の時、ラジオの連続ドラマ「赤胴鈴之助」の子役オーディションを受けたこと。一万人の中から選ばれた。その時もう一人、女の子で選ばれたのが藤田弓子さんだったという。このあたりで早くも読者は引き込まれる。演技は藤田さんのほうが上手だったそうだが、募集していた子役の役名が「さゆり」だったので、吉永さんも残った。ほんのちょっとの偶然が「大女優」をつくることになった。

「学費ぐらいは自分で稼いで」と言われた

 「愛と死をみつめて」や「キューポラのある街」など40作以上で共演した浜田光夫さん、「愛と死の記録」の渡哲也さん、「男はつらいよ」の渥美清さん、「動乱」の高倉健さん。このほか浦山桐郎、芦川いづみ、浅丘ルリ子、笠智衆、山田洋次、松田優作、市川崑、 岸恵子、森光子、樹木希林、深作欣二、緒方拳など多数の映画人にまつわるエピソードが登場する。

 「キューポラ」では名優、東野英治郎さんがお父さん役だった。殴られるシーンでは本当に思い切り殴られた。ご本人はお酒が飲めないのに、酔っ払う芝居がうまい。俳優というのは観察力だと痛感した。その東野さんから、「君は大人になっても、真っ赤に爪を塗るような女優になっちゃだめだぞ」と言われたことを今も覚えている。

 高校受験では必死に勉強して名門に受かった。(都立駒場高校。加藤登紀子さんらも卒業生)。しかし、家計が苦しく、母親から「学費ぐらいは自分で稼いで」といわれたこと、28歳の時、15歳も年上の岡田太郎氏(当時はフジテレビディレクター)と結婚し、「略奪婚ではないか」と世間で騒がれたが、実は「押しかけ女房」だったことなども明かしている。

「大女優キラー」は聞き上手

 本書は共同通信社の映画記者、立花珠樹編集委員が2016年に地方紙などへの配信記事として何度もインタビューした取材がもとになっている。さらにインタビューを重ねて、単行本にまとまった。吉永さんがざっくばらんに話しているのは、立花氏の聞き上手な人柄もあるのだろう。このところ『新藤兼人 私の十本』『厳選あのころの日本映画101』『女と男の名作シネマ』など著書が目白押し。加えて、『若尾文子"宿命の女"なればこそ』、『岩下志麻という人生』などの単行本も出しており、「大女優キラー」なのだ。

 1949年生まれの立花氏は、68年に一橋大学に入学。激動の時代を体験した世代だ。同じく共同通信には、文学担当の編集委員で『村上春樹を読みつくす』などの著書で知られる小山鉄郎氏がいるが、二人は同窓同学年だ。大手メディアの映画、文学記者の中では大方の見るところ、この二人が抜け出ているといわれる。立花氏にはニューヨーク特派員の経験もあり、1992年の著書『ニューヨーク人生横丁 光の海の街から』ではホームレス、レズビアン、エイズなどをきちんとした取材で取り上げている。

 本書で吉永さんは20代の半ば過ぎに、過労とストレスで声が出にくくなり、治るまでに数年かかったことも明かしている。同じように声が出にくくなった女性で思い出すのは美智子皇后だ。そんな共通項もあるだけに、吉永さんと美智子さまの映画にまつわる対談が実現すれば、大きな話題になるのではないか。日本を代表する慈愛に満ちたお二人だ。来年の5月以降なら可能になるかもしれない。立花氏や集英社には、今から準備をお願いしておこう。

(BOOKウォッチ編集部)
  • 書名 私が愛した映画たち
  • 監修・編集・著者名吉永小百合、取材・構成=立花珠樹
  • 出版社名集英社
  • 出版年月日2018年2月16日
  • 定価本体760円+税
  • 判型・ページ数新書・256ページ
  • ISBN9784087210224
 

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