本の帯に「ここは、地獄か?」とある。読みすすむごとに暗然とする。2015年2月、川崎市川崎区で起きた中学生殺人事件は、その凄惨さもさることながら、加害者の少年らと被害者の少年の奇妙な関係性に注目が集まった。主犯格の少年がフィリピン系日本人であったことも耳目をひいた。その3か月後には同じ川崎区の簡易宿泊所から出火、11人が死亡する火災が発生した。亡くなったのは日雇い労働者が多かった。こうした陰惨な事件がつづく川崎市南部の現場を取材したのが本書『ルポ川崎』(サイゾー)である。
著者は音楽ライターの磯部涼さん。いまラッパーとして活躍する元不良少年たちを端緒に、川崎のディープな話を聞き出してゆく。
「オレ、悪さして、日本刀持った友達の親に追いかけられたことある」 「別の友達の親は手の甲までびっしり刺青入れてて、金髪の坊主だったりした。しかも、母親のほうなんですよ。その家はみんなそんな感じだった。おばあちゃんも刺青入れていたし」 「中学生になると、カンパっていう形で上納金を徴収されるようになりました。川崎の不良には自由がないんですよ」
「貧困の連鎖」という一言でくくれないような、貧しさと暴力にみちた空間がいまも存在するのだ。ヤクザ、ドラッグ、売春、人種差別。負のカードを一手に集めたような、狭い世界で少年たちは生きてきた。
ラップという音楽に出会い、彼らは人生を軌道修正した。だからこそ語れることもあるのだろう。暗いトーンの本文中に、いくつか光明を見出したような箇所もある。
川崎にはふたつの顔があるという。小田急線、東急田園都市線沿線のニュータウンが広がる北部と臨海の工場地帯に近い南部。評者は以前、北部の中学校に長く勤めた元中学校教諭に話を聞いたことがあるが、南部は「教育困難校」が多く、「とても自分には勤まらない」といっていた。川崎市民も冗談めかして「川崎南北問題」というのだそうだ。不良少年たちの間では、たちまち「南北戦争」にエスカレートすることもあったという。
東京と横浜にはさまれ、存在感の薄い川崎。コリア・タウンなどのルポはあったが、これほど深部にまで足を踏み入れたものは初めてだろう。音楽との出会いで救われた少年たちの成功を祈るばかりだが、そうでない子たちはどうなるのだろう? そう思うと、また暗い気持ちになった。
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