2017年に多発性骨髄腫を発病し、闘病を続ける写真家の幡野広志さん。その1年前に長男が誕生している。
最新エッセイ『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』(ポプラ社、2023年8月23日発売)では、息子のこと、写真のこと、病気のこと、旅行のことなどを淡々とつづっている。
本書では、人気連載に書き下ろしを加えた51のエッセイが掲載されている。著者自身が"ふつうの日常をいちばん出せた本"というほど、素の幡野さんの姿が描かれている。
いくつか紹介していこう。
小学校の入学式の日は雨がしとしと降っていた。息子はすこし残念そうだった。お父さんは雨の日が好きだよといった。息子はぼくが雨好きということを耳のタコがずぶ濡れになるほど聞いている。そろそろウザったく感じているだろう。だけど息子はぼくが雨の日が好きな理由までは知らない。息子が生まれた日が雨だったから、ぼくは雨の日が好きなのだ。いまでも雨の日に一人で車を運転していると、息子が生まれた日のことを思い出す。 (「息子が生まれた日から、雨の日が好きになった」より)
「耳がタコになる」ではなく、「耳のタコがずぶ濡れになるほど」という独特な表現に、息子さんへのあふれるほどの愛情を感じる。
続いてこちらも、胸がじんわりと熱くなる一編だ。
病院にいく準備をして玄関で靴をはいていると、妻と息子が応援してくれた。たけのこがのびるような感じの手の振りと変な踊りと歌で、足をバタバタさせながら「がんばれっがんばれっ」と応援してくれた。おもわず笑ってしまった。写真をたくさん撮ろうかとおもったけど、こういうものほど目に焼き付けておいたほうがいい。きっとぼくが死にそうなときにみる景色はこれだろう。(「写真には撮らない景色」より)
素敵な笑顔のおじいちゃんは、いまはもうこの世にいないけれど......。
妻とぼくはおじいちゃんの葬式がすんだあとに、二人でおじいちゃんの話をした。そして一緒に泣いた。少しだけ悲しみが和らいで心が軽くなった。死ぬということがどういうことか、それをいちばん最初に息子に教えてくれたのはおじいちゃんだった。あたまが上がらない、そんな気持ちばかりだ。(「笑顔のおじいちゃん」より)
結末が気になる話も共感できる話も、心に沁み込むような言葉で溢れている。
また、『嫌われる勇気』著者・古賀史健さんとの対談「エッセイでも写真集でもない、あたらしい本の形」も20ページ収録されている。
さらに、本書の中から抜粋したエッセイと10枚の写真をパネルにした写真展も開催される。13店舗で実施予定だ。
人生が和食なら、主食のご飯が美味しいことが理想的だ。ご飯が美味しけりゃ、おかずは焼き魚でもトンカツでもなんでもいい。ぼくにとって人生の主食は『自分を好きでいる』ということなんだと思う。人生の主食が羽釜で炊いたご飯のように美味しいから、しっかり人生をたのしめいているつもりだ。(「はじめに」より)
「自分を好きでいる」ことから「人生をたのしめている」という幡野さん。ぶれない価値観や独自のモノの見方に触れられる1冊だ。
■幡野広志さんプロフィール
はたの・ひろし/1983年、東京生まれ。写真家。2004年、日本写真芸術専門学校をあっさり中退。2010年から広告写真家に師事。2011年、独立し結婚する。2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。近年では、ワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」、ラジオ「写真家のひとりごと」(stand.fm)など、写真についての誤解を解き、写真のハードルを下げるための活動も精力的に実施している。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)、『写真集』(ほぼ日)、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)、『なんで僕に聞くんだろう。』『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。』『だいたい人間関係で悩まされる』(以上、幻冬舎)、『ラブレター』(ネコノス)がある。
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