2023年7月25日、動物学博士テンプル・グランディンさんの新著『ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界』(NHK出版)が発売される。グランディンさんは自閉スペクトラム症(ASD)の当事者であり、同症の啓蒙活動において世界的に影響力のある学者のひとり。本書は、ASDと並ぶグランディンさんのもう一つの特質である「視覚思考者(ビジュアル・シンカー)」を扱ったものだ。今回はその中から、「ビジュアル・シンカー」に関する解説の一部を紹介しよう。
ASDだったグランディンさんは、幼い頃、まわりの世界を言葉で理解できず、画像で理解していた。今では言葉を話すが、それでも考えるときにはおもに「絵」を使い、視覚的なイメージが次から次へと、インスタグラムやTikTokのショートムービーを見るような感覚で思考しているという。これが視覚思考(ビジュアル・シンキング)だ。
視覚思考は、言葉で考える通常の言語思考と異なり、脳が視覚の回路を使って情報を処理するという思考のプロセスをたどる。この回路の違いが、二つのタイプにさまざまな違いを生む。
たとえば、言語思考タイプは一般的な概念を理解するのが得意で、学校での勉強や時間の感覚に優れているが、方向感覚は必ずしもいいとは言えない。一方、視覚思考タイプは一般に地図や迷路が好きで、道案内がまったく不要なこともよくあるという。
しかし、視覚思考タイプは子どものころに話しはじめるのが遅く、学校や従来の教え方では苦労することも。グランディンさんの場合は4歳まで言葉が話せなかった。抽象的で視覚化できる具体的なものがない代数はとくに苦手だという。そのかわり、建設や組み立てのような実際の作業に直接関係する計算は得意な傾向がある。
視覚思考者かどうかを調べる脳画像検査は今のところ存在しないが、ある研究グループが数年かけて開発した「視覚空間型思考判定テスト」は、「聴覚連続型」思考者(言語で考える人)と「視覚空間型」思考者(絵で考える人)を見分けるのにとても役立つという。
自分がこのスペクトラムのどこに当てはまるのか関心がある人は、本書に掲載されている「視覚空間型思考判定テスト」の質問に「はい」か「いいえ」で答えてみてもいいかもしれない。質問には、たとえば以下のようなものがある。
1 考えるときには、言葉ではなく、おもに絵を使う。
2 方法やわけを説明できなくても、物事がわかる。
3 ふつうと違う方法で問題を解決する。
4 物事をありありと想像する。
5 目で見たことはおぼえているけれど、耳で聞いたことは忘れる。
6 単語をつづるのが苦手。
7 物体をいろいろな視点から思い浮かべることができる。
【目次】
はじめに 「視覚思考」とは何か
第1章 視覚思考者の世界――頭の中の「絵」で考える人びと
第2章 ふるい落とされる子どもたち――テストではわからない才能
第3章 優れた技術者はどこに?――視覚思考を社会に活かす
第4章 補い合う脳――コラボレーションから生まれる独創性
第5章 天才と脳の多様性――視覚思考と特異な才能が結びつくとき
第6章 視覚思考で災害を防ぐ――インフラ管理から飛行機事故の防止まで
第7章 動物も思考する――視覚思考との共通点
おわりに 視覚思考者の能力を伸ばすために
■テンプル・グランディンさんプロフィール
コロラド州立大学動物科学教授。動物学博士。自閉スペクトラム症の当事者であり、同啓蒙活動において世界的に影響力のある学者のひとり。自叙伝をもとにしたテレビ映画「テンプル・グランディン~自閉症とともに」は、エミー賞7部門とゴールデングローブ主演女優賞などを受賞、大きな話題となった。著書に『自閉症感覚』『自閉症の脳を読み解く』(以上、NHK出版)、『我、自閉症に生まれて』『自閉症の才能開発』(以上、学習研究社)など。2010年にタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に、2016年にアメリカ芸術科学アカデミー会員にそれぞれ選出された。コロラド州フォートコリンズ在住。
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