子どもの自己肯定感を高めるには、「自分を大切にする」ことが大事だと言われている。とはいえ、親である自分自身、いつも社会や家族を優先して自分を後回しにしてきたので、その方法がわからない。親だって自信がないのに、子どもにどう伝えれば......?
そんなお悩みを持つ親御さんから反響を呼んでいるのが、NHK Eテレで放送中のアニメ「アイラブみー」だ。5歳の主人公「みー」が、こころやからだのふとした疑問をきっかけに、「自分を大切にするってどういうことなのか?」を探っていく冒険物語で、教育学や発達心理学、性教育など各分野のエキスパートが監修を務めている。
今回、アニメをもとに『アイラブみー じぶんをたいせつにするえほん』として書籍化。絵本の監修者の一人でもある、東京大学名誉教授の汐見稔幸さんに、親も子も自己肯定感を育むためにはどうすればよいのか、お話を伺った。
――「自分を大切にする」ということは、当たり前のことだからこそノウハウがあるわけでもなく、子どもへの伝え方が難しいです。
汐見さん(以下略) 確かに、「自分を大切にする」ということの中身は、それほど分かりやすいことではありません。自分を甘やかすこととも違う。では、どうすればいいのかと考えた時、まずは「自分を知る」必要があります。僕は、自分が生きている世界を知る、自分を支えてくれる人を知る、そして、その中で生きている自分を知る。この3つを串刺しにするのが本来の教育だと思っています。
その入り口になるのが、子ども自身の「好き」という気持ちです。親はその気持ちを尊重すること。その子が「自分の好みというのは悪いものではない」と思えることが大切です。
――たとえば恐竜が好きとかダンスが好きとか、はっきりしている子はいいのですが、好きなことが分からない子は、どうすればいいのでしょう?
性格によって「面白い!」と思ったことに没頭する子もいれば、面白いと思っただけでそれ以上はやらない、そういうタイプの子もいますよね。すぐに興味を失っても、それでいいんです。一度でも興味を持ったことは心の中にずっと残っていて、ふとした時に思い出す。じわじわと発酵させていって、二十歳くらいになって「これがやりたかったんだ」って気づくんです。「三年寝太郎」って話があるけど、三年どころか二十年寝太郎だよね(笑)。
人間ですから、これは面白い、あれが好き、こんなことがやりたかったんだっていうものは必ずあるはず。それを見つけるには、子どもが立ち止まってじーっと何かを見つめている時がチャンスです。たとえば工事現場で機械に見入っていたら図鑑を見せてあげるとか、少しでも興味を持ったものに触れさせる。どこで花開くかは分からないけど、子どもの心の中に発酵の種をまいてあげるといいですね。
――立ち止まっていると、つい「早く!」って言っちゃいます。そこで観察することが大事なのですね。
そうですね。親の仕事でいちばん大事なのは、子どもがどういう人間なのかをよく観察し、どうすれば伸びるのかを考えることです。ほめて伸びる子もいれば、どんなにおだててもやらない子もいますし、石橋を叩かずに渡る子もいれば、石橋を見たら引き返す子もいる。どちらがいいとかじゃなく、「お、こいつは引き返し派だな。じゃあこうすれば伸びるな」というふうに、その子の面白いところ、いいところを冷静に観察するんです。つまりコーチングですよね。名コーチになったつもりで子どもに接するといいですよ。
――よその子は客観的に見られるのに、自分の子どもだと、なかなか冷静になれなくて......。
きっと、我が子にはこうなってほしいという思いが強いからでしょうね。でも残念ながら、子どもは親が期待するような人間ではありません。
子どもがどういう人間なのかを知るには、いろんな文化や多様な生き方をしている人に出合わせてみるといい。その時にどういう反応を示すのかをよく観察するんです。僕は、3人の子どもたちが小さい時、脱サラして陶芸家をしている人や、農業をしている人がいると聞いたら、彼らをそこへ連れて行き、反応を見て楽しんでいました。
またある時、長男に「庭って何?」と聞かれたんです。公団住宅に住んでいたので、自然に触れる機会が少なかったんですね。それからというもの、毎週のように休日は山へ連れていきました。はっきり覚えてはいなくても、楽しかったという記憶は残る。彼は今、森林評価士の仕事をしています。何がきっかけになるかわからないですよね。だから、子どもはいろんなことや人に出くわさなきゃいけない。僕はそう思っています。
――日本の子どもたちは他国に比べ自己肯定感が低いという調査結果があります。なぜそうなってしまうのでしょう?
この調査結果については、気をつけて判断する必要があります。たとえばアメリカの教育は、子どもに自信を持たせることを目的に徹底してほめる。一方で、根拠もないのにほめられて、かえって自尊心を傷つけられるという問題も指摘されています。日本の子どもたちが「自信がある」と答えづらいように、アメリカの子どもたちは「自信がない」とは答えにくいのかもしれない。実際にはデータが示すほど両者の間に大きな差はないんじゃないかと思います。
一方で、ユニセフの調査などでも、日本の子どもたちは精神的満足度が低いという結果が出ています。それは、日本では子どもが意見を聞かれて、それが尊重されるというチャンスが極端に少ないからなんです。
学校でカリキュラムを作るのに、「1時間目は国語にする? 算数にする?」なんて子どもに聞くことはないですよね。僕は、そういうことをどんどんやればいいと思う。家庭でも、旅行の行き先を決める時に意見を聞くとか、ニュースを見て話し合うとか、子どもを子ども扱いしない文化があれば、本当の意味での自己肯定感が育ってくる。それが、ひとりの人間として大事にされているという感覚であり、「自分を大切にする」ということにつながっていくのです。
――親である私たち自身が自己肯定感を高めるために、心がけることはありますか?
自分を否定しないことです。そして、やりたいことを形にしていくこと。子育て中で忙しければ、10やりたいうちの1つでもいい。おいしいものを食べ歩こうとか、美術展を制覇しようとか、何でもいいからできる範囲でやってみて、子どもが大きくなったら一緒にやるなどいろんな方法で形にしていく。やりたいことを諦めないことが大切だと思います。
Eテレで放送中のアニメ「アイラブみー」を書籍化した、『アイラブみー じぶんをたいせつにするえほん』(新潮社)は、2023年6月21日に発売された。放送時に話題を呼んだ「なんでパンツをはいているんだろう?」のエピソードをもとに、みーの素朴な疑問や自由な発想から「自分を大切にする」ことを学べる絵本だ。番組の脚本を手掛ける竹村武司さんの文章に、キャラクターデザインを務めるobakさんのかわいいイラストが加えられ、楽しいストーリーが展開していく。汐見先生はじめ、専門家による解説やQ&Aなど保護者に寄り添う温かなアドバイスも必読だ。親子で楽しみながら自分を知り、自己肯定感を育むことのできる一冊。
■汐見稔幸さんプロフィール
しおみ・としゆき/一般社団法人家族・保育デザイン研究所 代表理事。東京大学名誉教授・白梅学園大学名誉学長・全国保育士養成協議会会長・日本保育学会理事(前会長)。
専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。自身も3人の子どもの育児を経験。保育者による本音の交流雑誌『エデュカーレ』編集長でもある。持続可能性をキーワードとする保育者のための学びの場「ぐうたら村」村長。NHK Eテレ「すくすく子育て」などに出演中。
近著に『見直そう!0・1・2歳児保育 教えて!汐見先生 マンガでわかる「保育の今、これから」』(Gakken)、『汐見先生と考える こども理解を深める保育のアセスメント』(中央法規出版)、『子どもの「じんけん」まるわかり』(ぎょうせい)などがある。
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