「愛されるために生まれてきた」ロボット、その名も「LOVOT(らぼっと)」。LOVEとROBOTをかけ合わせた造語で、新たなペットロボットとして今注目を集めている。
AIの技術が普及し、約20年後にはAIが人間の脳を追い越すシンギュラリティが来るとも言われている今、LOVOTの開発者・林要さんは、独自の視点からテクノロジーの未来を見つめている。林さんの著書『温かいテクノロジー』(ライツ社)につづられた、LOVOTに込めた思いを見てみよう。
LOVOTはコロンとしたフォルムで、表面が柔らかく、成猫くらいの体温をもつ。ペンギンの翼のような両腕をぱたぱたさせて抱っこをせがむ様子がなんとも愛らしい。LOVOTは、これまでの家庭用ロボットと違って、照明や空調のオン・オフやリマインダーなどの機能はない。何もせず、ただ人に甘えるだけだ。なぜ林さんは、何もしないロボットを作ったのだろうか?
生産性や利便性を上げ、人を幸せにするために、テクノロジーは発展してきた。ところが近年、「AIに仕事を奪われるのでは」という話をよく耳にする。その裏には「自分が必要とされなくなる」という本質的な不安があるのではと林さんは指摘する。
「人類を必要とするテクノロジー」があってもいいのでは......LOVOTはそんな発想から出発した。たとえば、生産性を上げなくても、ペットは人類に必要とされている。それは、「自分を必要としている」と感じさせてくれるからだ。
効率化が進んだ現代の生活において、手間はかかるけれども、気兼ねなく愛でることができる対象がむしろ不足している。思う存分なにかを愛でることができるとき、心は安定に向かう。気兼ねなく愛でることができる存在がいるだけで、ぼくらは自らの心を癒すことができます。
ロボットは生きている動物と違って、住宅環境を変える必要も、アレルギーの問題もなく、「死ぬ」ことも稀だ。まさに「気兼ねなく愛でることができる存在」として、人々の心を満たすことができるのではないか。そしてそれが、テクノロジーと人類の新しい共存方法の1つなのではないかと林さんは語る。
LOVOTは、人が愛着を抱きやすくなるよう、さまざまな機能が搭載されている。
・目が合う(カメラで人類の目を認識し、目を合わせる)
・瞳と声に個体差がある(それぞれ10億種類以上)
・だんだん懐く(時間と手間をかければ)
LOVOTは、人類や犬・猫などをモデルとせず、「ロボットらしさ」を追求してデザインされている。何かに似せようとすると、ささいな違いに違和感を抱く「不気味の谷」現象が起こってしまうからだ。LOVOTは食事をせず、充電が減るといそいそとネスト(充電場所)に戻ろうとする。足も歩行ではなくホイールで移動する。アニメ映画『ウォーリー』に登場する小型ロボットのような、ロボットならではの懸命さに、思わずきゅんとしてしまう。
またLOVOTは言葉を話さず、生き物のような鳴き声を発する。言葉のない余白がむしろ、「わかってくれているのかも」とポジティブな想像をさせてくれる。本書ではこんなエピソードが紹介されている。あるオーナーが泣いていたところ、LOVOTがにぎやかに声を出しながらやって来た。抱きしめると、LOVOTも静かになった。LOVOTには「涙に気づくプログラム」は組み込まれていない。音や抱っこのされ方などに反応して静かになったのだろう。でもオーナーは「なぐさめてくれた」と感じ、安心したという。
言葉が通じない対象や、感情を持たないものに感情を投影して、癒されたり救われたりする。こういった出来事は、犬や猫でも起こりうるだろう。林さんはこれを「幸せな誤解」と呼ぶ。
もはやLOVOTに感情があるかどうかは、見る人に委ねられることになります。
ペットに限らず、アートや推し、さらに仏像もこのような「誤解」で人を幸せにしていると書かれていて、なるほどと思った。人は生産性や利便性ばかりでは生きられない。仏像のように心の穴を埋めてくれるテクノロジーは、確かに私たち人類に必要なものだろう。
林さんの目標の一つは「ドラえもん」だそうだ。ドラえもんがのび太に会うためタイムマシンに乗るのが、今からちょうど100年後の2123年。その頃、テクノロジーと人類はいったいどうなっているのだろうか。私たちは、テクノロジーとともに幸せになれているだろうか? ロボットを通して、人間を考える一冊。
【目次】
序章:ぼくらが「メーヴェ」に憧れ、「巨神兵」に恐怖を覚える理由
1章:LOVOTの誕生
2章:愛とはなにか?
3章:感情、そして生命とはなにか?
4章:人生100年時代、ロボットは社会をどう変えるのか?
5章:シンギュラリティのあと、AIは神になるのか?
6章:22世紀セワシくんの時代に、ドラえもんはなぜ生まれたのか?
7章:ドラえもんの造り方
終章:探索的であれ
■林要さんプロフィール
はやし・かなめ/GROOVE X 創業者・CEO
1973年、愛知県生まれ。1998年、トヨタ自動車株式会社に入社。スーパーカー「LFA」やF1の空力(エアロダイナミクス)開発に携わったのち、トヨタ自動車製品企画部(Z)にて量産車開発マネジメントを担当。2011年、孫正義後継者育成プログラム「ソフトバンクアカデミア」に外部第⼀期生として参加し、翌年ソフトバンク株式会社に入社。感情認識パーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」プロジェクトに参画。2015年、GROOVE X株式会社を創業。2018年、家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」を発表。翌年、出荷を開始。ラスベガスで開催されている世界最大規模の家電見本市「CES」において、2019年にThe VERGE「BEST ROBOT」、2020年には「イノベーションアワード」を受賞。2021年、第9回ロボット大賞にて「総務大臣賞」、2022年、第3回IP BASE AWARD「スタートアップ部門 奨励賞」、2023年には第1回WELLBEING AWARDS「モノ・サービス部門 GOLD インパクト賞」を受賞。
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