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石田ひかりが「鳥肌立った」感動作。聴いて、読んで、味わって。

Mori

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百年の子(オーディブル版)

 小学館の『小学一年生』に代表される学年誌。全盛期には数社から子どもたちの大好きなマンガや付録を盛り込んだ雑誌が発売されていたが、時代の流れで多くが休刊になり、寂しく感じた方も多いのではないだろうか。

 俳優の石田ひかりさんもその一人。子どもの頃、お小遣いを握りしめて書店へ買いに行った学年誌に、最近、ある物語の中で再会した。それが、古内一絵さんの新著『百年の子』だ。360ページにわたる長編で、実は書籍としてはまだ世の中に出ていない。というのも本作は、本を朗読した音声を配信するサービス、Amazon オーディブル(以下、Audible)による「オーディオブック」として先行配信した後、書籍として出版される作品。ナレーターを務めた石田さんに、作品の感想や「朗読」という表現の魅力について伺った。

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石田ひかりさん(編集部撮影)

表現の拙さを突き付けられた

 過去にもラジオで太宰治の短編集を朗読したことがある石田さん。ラジオドラマやドキュメンタリー番組のナレーション経験も豊富だが、Audibleのナレーターは初めて。以前から「ぜひやってみたい」とマネージャーに相談していたところ、念願のオファーが来たという。

 「朗読って、俳優としてものすごく勉強になるんです。声だけで人物の心情から風景、温度や風のそよぎまで、すべてを伝えなくてはなりませんから。かといって、全力でワーッと表現すればいいというものでもなくて、さじ加減がとても難しい。豊かな表現力が必要なのだと毎回痛感します。」

 そんな石田さんが感嘆したAudible作品が、風間杜夫さんが朗読した『ハリー・ポッター』シリーズだ。「何冊もありますから、当然、何人かで分担して読まれたんだろうと思ったのですが、風間さんが全部お一人で読まれているんですよね。もう本当に驚きました。収録にもきっと、とてつもない時間がかかったはずです」。

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風間杜夫さん朗読のハリポタシリーズは全7作。再生時間40時間を越える作品も!

 かく言う石田さんは、360ページの収録に1日6時間、8~9日間かかったという。手元に原稿が届いたのは舞台公演の真っ最中。公演が終わってから収録が始まるまでの5日間足らずで読破した。「とても面白かったので、一気に読めたのですが、いざ収録が始まって、声に出して読むというのは、思っていた以上に体力のいることでした」と振り返る。

 「間違いなく読み、声の芝居で表現する。それだけで相当の集中力を必要とするのですが、今はマイクの性能もいいですから、身動きが取れないんですよ。ちょっと手が動いただけで、カサって音が入ってしまったり、おなかが鳴っちゃったり(笑)。すごく集中して読むので、毎回、後半はかなりキツかったですね」

 収録中、「表現の拙さを日々突き付けられた」と語る石田さん。最も難しかったのは、声のトーンだ。「職業病というか、声に表情が自然と出ちゃうんですよね。ほがらかな台詞の時は、表情も作った方が声に(感情が)出やすいので。ただ、あまりやりすぎるとリスナーは疲れてしまうと思うんです。聴いている方が気持ちをのせられるように、シンプルな形でお届けしようと思ったこともあって、そう心掛けて読んでいるパートもあります」。

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五の上の一本線をなくした理由

 『百年の子』では、大手出版社・文林館に務める市橋明日花と祖母、鮫島スエの物語を中心に、令和と戦中・戦後の昭和の時代が交互に描かれていく。花形女性ファッション誌の編集部から、不本意にも学年誌創刊百周年記念の企画チームに出向になった明日花が、学年誌の歴史をひも解いていく過程で、スエとの意外なつながりを発見する。なぜ祖母は、その事実を自分に語らなかったのか――。

 すれ違う親子の関係や、仕事と家庭の両立、子育てや介護など、女性が抱える悩みを織り込みながら、時代に翻弄されつつも「今」を懸命に生きる人々の情熱を描いた感動作だ。

 著者の古内さんが、元小学館学年誌編集者に取材し、当時の資料を調べたうえで、「いくつかの事実をヒントにしたフィクション」だという本作。石田さんは、どう読んだのだろうか。

 「まず、すごい取材力だなって思いました。ちょうど私の父が昭和14年、母が18年生まれで、物語の始まりの時期と重なるのですが、戦争の描写などは読んでいて本当につらかった。私の両親はあまり語ろうとはしないけれど、当時、すごく理不尽なこともたくさんあっただろうと想像しました。」

 読みながら、たびたび「鳥肌が立った」という石田さん。なかでも印象に残ったのが、『學びの五年生』の創刊時、「五」の上の一本線をなくしたという逸話だ。「自由に伸びてゆくものに蓋をすべきではない」という信念に基づき、第一画の横棒のない字体を指定した創業者の思いを読み、胸が熱くなった。「私もそういう気持ちを常に持って、子育てができればよかったな」と、働きながら2人の子育てに奮闘した過去を振り返る。

 「『人間の歴史は百万年。子どもの歴史は百年』という台詞があるのですが、子どもの人権をみんなが意識するようになってから、たった百年。それ以前は、子どもたちがどれほどつらい思いをしていたのだろうと考えると、胸が痛くなります。これからの子どもたちは、のびのびと幸せに育っていってほしい。私が子どもの頃よく読んでいた学年誌には、当時の大人たちのそんな願いが込められていたんだなと、この作品を読んで、初めて知ることができました。」

 そんな石田さんが、「ぞわっとした」という圧倒的なラストとは。ぜひ、彼女の声で聴いて、肌が粟立つ感覚を体感してほしい。

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5月26日配信Audible『百年の子』。書籍は8月4日発売予定。

「読む」と「聴く」で異なる味わいを

 本好きの石田さん。故・山本文緒さんの作品のファンで、昨年、山本さんの訃報を聞いてから、いまだに喪失感がぬぐえないと言う。ほかにも、銀色夏生さんの『つれづれノート』や、桐島洋子さんの『マザー・グースと三匹の子豚たち』など、おすすめの作品を聞くと、次々と好きな作家や作品の名前が挙がるが、意外にも、古内さんの作品を読んだのは初めてだと言う。

 「今回、これまでに読んだことのない新しい作品に出合えて、視野が広がり、幸せな読書体験をさせていただきました。また、黙読するのと声に出して読む、そしてそれを聴くのとでは、それぞれに違った味わいがあることも発見でした。声に出して読むことで、自分の中に作品が別の形で残るんです。『聴く』という新しい形でお届けすることで、この素晴らしい物語を多くの方と共有したい。そんな思いを込めて、皆さんの耳元に、そっとお邪魔します(笑)」

■石田ひかりさんプロフィール
いしだ・ひかり/1972年東京都出身。1986年俳優デビュー。1992年NHK朝の連続TV小説『ひらり』の主役で注目を浴びる。1991年第15回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞(「ふたり」「あいつ」「咬みつきたい」)。近年の主な出演作にドラマ「きょうの猫村さん」「ファイトソング」「警視庁アウトサイダー」など。2023年夏には舞台asatte produce「ピエタ」が控える。

■古内一絵さんプロフィール
ふるうち・かずえ/1966年東京都生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映画会社に入社。その後、中国語翻訳者として活躍。『銀色のマーメイド』で第五回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、2011年小説家デビュー。主な作品に「マカン・マラン」シリーズ、「キネマトグラフィカ」シリーズ、「風の向こうへ駆け抜けろ」シリーズ、『フラダン』などがある。2017年『フラダン』で第六回JBBY賞受賞。

  • 書名 百年の子(オーディブル版)
  • 監修・編集・著者名古内一絵 著/石田ひかり ナレーション
  • 出版社名(配信元)Amazon Audible
  • 出版年月日2023年5月26日
  • 定価3,500円。Audible会員は月会費1500円で対象作品が聴き放題。
  • 備考書籍版『百年の子』(小学館)は2023年8月4日発売予定。

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