生涯、独身を貫くことについて、あなたはどう感じるだろうか。
「既婚者=成熟している」「シングル=未熟」というような、さまざまな偏見や勝手な思い込みにさらされる一方で、シングル人口は世界中で急速に増加しているという。
『「選択的シングル」の時代 30カ国以上のデータが示す「結婚神話」の真実と「新しい生き方」』(文響社)が2023年6月8日に発売された。
著者は、イスラエルの社会学者であるエルヤキム・キスレフ博士。日本をはじめ30カ国以上のデータ分析や多数のインタビューに基づき、シングルが増加する現象やその背景のメカニズムを明らかにしている。
本書では、さまざまな差別やプレッシャーに直面しつつも、未婚者や離婚経験者、パートナーと死別した人など、多くのシングルの人々が、どのように自分の人生を送っているかを知ることができる。読み終えるころには、彼ら・彼女らの生き方を、私たち自身の日々の生活に生かすアイデアが見つかるはず。
第5章「『脱物質主義』の世界を生きるシングルたち」では、フェミニズム運動によって女性が家族や仕事での分担、性的役割などから解放され、家庭の外へ進出できるようになったという背景が書かれている。
こうした進歩はさらに、結婚するかどうかだけでなく、母親になるかどうかの決定にも影響を与えているそうだ。
男女平等が比較的達成されている社会では、女性に対する「結婚して子どもをもて」というプレッシャーは減ってきている。逆に、子どもをもったことを後悔している母親たちへのインタビューに基づいた研究も注目を集め、本として刊行された。『母親になって後悔してる』(新潮社)がそれだ。
同じく、『The Mother Bliss Lie: Regretting Motherhood(母親であることがハッピーだという嘘 私が[母親ではなく]父親になりたかった理由)』(未邦訳)という本も広く読まれたという。
「こうした著作の増加は、子どもをもたない決断をすることが当たり前になり、主流の考え方に加わっていることを示している」とキスレフさんは指摘する。
このほか、たとえば次のようなトピックについても、豊富なデータを用いながら解説している。
・欧米諸国では40~60%が離婚する
・アメリカの新生児の約1/4は生涯未婚
・北欧諸国の約40%はシングル世帯
・2030年までに世界の独身者の割合は20%増加
・結婚による幸福感は2年しか続かない――結婚がもたらす「孤独」と「長期的リスク」
・シングル人口増加の背後にある8つのメカニズム
・社会的プレッシャーと「独身差別」に立ち向かうための5つの戦略
・「幸せなシングルたち」が実践している6つのワーク・ライフ・バランス戦略
ただし、本書は決して結婚に反対するためのものではない。キスレフさんが目指すのは、あくまでシングルの大きな可能性を示すことなのだろう。
「私たちは、シングルという生き方がもつ豊かな可能性にまったく気づいていない。シングルの生き方に対して、もっと明確で、よりよいイメージをもつことができれば、誰もがもっと自由に、自分に適したライフスタイルを選べるようになる。もちろん、それでもやはり、結婚を選ぶ人たちもいるだろう。よく考えた上での決定であれば、結婚を選ぶ人たちにとっては、よりよい結婚になるだろうし、ひとりでいることを選ぶ人たちもより満足していられるだろう」
長い人生、誰にだって「ひとり」の期間は訪れる。今「ひとり」ではない人にも、離別や死別によってまた「ひとり」に戻るかもしれない。あなた自身だけでなく、身近な人が「生涯シングル」で過ごすことも、これからはより「当たり前」になっていく。シングルへのさまざまな偏見や思い込みを取り払い、可能性に目を向けることで、より生きやすい社会になるはずだ。
■Elyakim Kislevさんプロフィール
エルヤキム・キスレフ/イスラエル・ヘブライ大学の公共政策・政府学部で教鞭を執る。マイノリティー、社会政策、シングル研究が専門。米国・コロンビア大学で社会学の博士号を取得したほか、カウンセリング、公共政策、社会学の3つの修士号を有する。リーダーシップ、移住、社会・教育政策、エスニック・マイノリティー、グループ・セラピー、シングルなどのテーマで、多くの記事・書籍を執筆・編纂している。
■訳者 船山むつみさんプロフィール
ふなやま・むつみ/東北大学文学部(フランス文学専攻)、慶應義塾大学法学部(政治学専攻)卒業。日経国際ニュースセンター、在日スイス大使館科学技術部などを経て、翻訳者。訳書に『ジャック・マーの生声』『2000年前からローマの哲人は知っていた 選ばれる方法』(ともに文響社)『7つの階級――英国階級調査報告』(東洋経済新報社)など。全国通訳案内士(英語・中国語・フランス語)。
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