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"無知"から警察に騙されて......「冤罪」と闘い続ける60年

被差別部落に生まれて

 1963年5月1日、埼玉県狭山市で女子高校生が行方不明となった。犯人は身代金を要求し、警察が取り逃がして、被害者は遺体となって発見された。

 容疑者となったのは、被差別部落在住の石川一雄さん。一度は自白したものの、否認に転じ、今日まで再審請求を続けている。この「狭山事件」、そして石川さんの半生を追ったノンフィクション『被差別部落に生まれて 石川一雄が語る狭山事件』(岩波書店)が発売された。


 石川さんは当初別件で逮捕され、狭山事件の逮捕に切り替えて「自白」を迫られたという。本書によると、警察は一家の大黒柱であった石川さんの兄が犯人であるとだまし、さらに、本来なら別件だけで二十年の刑だが自白をすれば十年で出すと嘘をついて、石川さんをそそのかしたのだそうだ。

 捜査当初から、周辺の被差別部落に的が絞られて捜査されたこと、そして学校教育をほとんど受けていなかった石川さんの"無知"を利用したことが、この冤罪の問題点だと本書では指摘している。石川さんは、自分を小学校へほとんど行かせなかった父親に対し、このように語っている。

「親父のためにね、ある意味では逮捕されたんだから。若い時、無知なまま放りだしたから。放り出したのは親父だからね。お袋は関係ないから。私が不幸だったのはやっぱり学校に行かなかったことだね。学校へ行けなったこと、行かさなかったこと。親父は許さない、今でも」

 本書は、石川一雄さんと妻の石川早智子さん、そして聞き手の部落解放同盟委員長の片岡明幸さんの対話を中心に構成されている。30年間に及ぶ獄中生活、現在まで続く闘い、そして石川さんが訴えたいこととは。

【目次】
はじめに
第1章 狭山で生まれた少年――仕事と青春
第2章 つくりあげられた「犯人」
第3章 文字の習得と〝部落解放〟への目覚め――東京拘置所時代――
第4章 労働と闘いの日々――千葉刑務所時代
第5章 「見えない手錠」をはずすまで
おわりに

主要参考文献
石川一雄略年譜
【資料】被告人最終意見陳述
あとがき

■黒川みどりさんプロフィール
くろかわ・みどり/早稲田大学第一文学部日本史学専攻卒業。博士(文学)。現在、静岡大学教授。日本近現代史。『共同性の復権――大山郁夫研究』(信山社、2000年)、『つくりかえられる徴――日本近代・被差別部落・マイノリティ』(解放出版社、2004年)、『描かれた被差別部落――映画の中の自画像と他者像』(岩波書店、2011年)、『差別の日本近現代史――包摂と排除のはざまで』(共著、岩波書店、2015年)、『創られた「人種」――部落差別と人種主義』(有志舎、2016年)、『評伝竹内好――その思想と生涯』(共著、有志舎、2020年)、『被差別部落認識の歴史――異化と同化の間』(岩波現代文庫、2021年)、『増補近代部落史――明治から現代まで』(平凡社ライブラリー、2023年)など。



  
  • 書名 被差別部落に生まれて
  • サブタイトル石川一雄が語る狭山事件
  • 監修・編集・著者名黒川 みどり 著
  • 出版社名岩波書店
  • 出版年月日2023年5月17日
  • 定価2,750円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・290ページ
  • ISBN9784000245500

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