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略奪婚報道で溜飲を下げていていいの? あなたの見ているワイドショーのウラ

読むワイドショー

 朝から昼、午後も夕方も、時計代わりにテレビのワイドショーやニュース番組をつけっぱなしにしている人も多いだろう。それだけ日本の地上波はワイドショーだらけだ。NHKでさえ、ワイドショーっぽい作りの番組が増えている。

 ただ、ワイドショーという名前の由来や、登場するコメンテーターは選ばれている理由は何かなど、まじめに考えたことがあるだろうか。

 日本人と思われる覆面作家のパオロ・マッツァリーノさんが筑摩書房から出した新書『読むワイドショー』は、ワイドショーの歴史的な起源からコメンテーターの意見をどう受け止めるべきかの解説も詳しく、目からウロコという感じになる。しかし、タイトルから受ける印象とは違い、日本の放送と国民、政治との関係を真正面から検証した本と言った方が正しい。

 奇しくも、本書が上梓されて1か月ほどたったタイミングで、国による放送免許の剥奪をめぐる解釈の変更をめぐり、安倍政権当時の首相官邸幹部と総務省幹部が極秘で検討していたことを示唆する内部文書が明らかになり、国会は大騒ぎになっている。本書を読んでから、今回のニュースに接すると、その問題の根深さが手に取るように分かるし、NHKも含めた日本の放送界と政治との間では、暗闘と癒着の歴史が続いてきたことに唖然とさせられる。

「うざいコメンテーター」

 パオロさんは、民放のワイドショーはもちろん、ニュース番組もほとんど見ず、ニュースはもっぱらNHKで用を足すという。その理由は、「うざいコメンテーター」の存在だ。そう言われてみれば、民放ではワイドショーはもちろん、ニュース番組でも、その道の専門家というわけではない「コメンテーター」が登壇することが当たり前になっている。

 大半は、大学教員や弁護士、IT企業経営者、さらには元スポーツ選手や落語家、芸能人などだ。そして、アナウンサーやこれも芸能人が多い司会者が、読み上げられたニュースを振ると、コメンテーターがなんらかの感想をつけ加えるのだが、パオロさんは「このやり取り、要る?」と一刀両断である。

 一般視聴者が抱くのと同じような感想を述べられて、やはりそうだとうなずく人もいるかもしれないが、むしろ、専門的な知見に基づく「コメント」を聞いたほうが、ニュースを見る目も正確になっていくということで、その点では、専門家や担当記者以外のコメンテーターが登場しないNHKニュースの方が、まだましというわけだろう。

 ただ、かつてはニュースショーとして始まった番組が、徐々にワイドショーに変化していく過程を読んでいて思い起こすのは、テレビ報道の問題として提起される「培養理論」だ。テレビはそれまでのマスメディア(もっぱら活字メディア)と違い、高度な言語能力はいらず、茶の間でただで長時間、接することができる。知らず知らずのうちに視聴者の現実認識を規定していき、結果として価値観や倫理観などが長期にわたって培養されるというものだ。

叩かれるのは「男性を略奪した」女性

 コメンテーターが語る言説は、視聴者を含めた共通の価値観に裏打ちされていることが多く、聞く分には心地よいものだ。ネットによる情報の摂取の問題点として、自分の意見に近い情報だけに接してしまうエコーチェンバーやフィルターバブルが注目されているが、すでに民放テレビのワイドショーで起きていたことの再生産と言えるかもしれない。

 そうした価値観を表すかどうかはわからないが、パオロさんは「略奪婚」という言葉が、日本の芸能メディアで使われ出した経緯を、文献を駆使して調べている。現在、略奪婚に共通するのは、叩かれるのは「男性を略奪した」女性であり、男性が「女性を略奪した」という表現は極めて少ない。かつてはそうではなかったことを含め、無関係の一般人が、芸能人や有名人の離婚や再婚となると「略奪婚」と形容して糾弾し、溜飲を下げるようになっていく様がこまめに解説されていく。「不倫」という言葉の使われ方も、1983年に始まったテレビドラマ『金曜日の妻たちへ』とワイドショーに端を発した流行なのだということに気づかされる。

 いかにもワイドショーがらみのテーマで書いてきたが、最初にも触れたように、本書のもう一つのモチーフは、政治と放送であり、あえて言えば、最終章の「政治を語る芸能人」である。

 ここで取り上げられるのは、古くは放送作家の三木鶏郎から司会者として一世を風靡した前田武彦、そして今もテレビで毒を吐き続けているビートたけし等のテレビ芸能人である。三木、前田、たけしの3人をどれだけ知っているかで世代が分かろうというものだが、世代が下るほど、テレビは政治批判の牙を抜かれてきたのだと気づく。

高視聴率だった政治風刺番組

 戦後まもなく、NHKと民間のラジオ放送の時代からテレビの黎明期の時代に、政治風刺や政治批判を扱う番組がどれだけ人気を博し、今では考えられない視聴率を得ていたかに驚く。それに怒る政治家(主に政府や与党)が芸能人や番組を潰そうとし、抵抗する関係者の奮闘ぶりも様々な記録をもとに再現される。今でこそ「政府の犬」扱いされることもあるNHKだが、当時はけっこう頑張っていたのだ。テレビ業界人はこれをどう読むだろうか。

 そして現下のテレビと政治の状況である。先に触れた総務省の内部文書について、現総務大臣は「行政文書」と認めながら、当時の総務大臣は「自分について書かれたことは捏造」だと言い張っている。これを扱うテレビのワイドショーは客観報道に徹するあまり、自社のこの問題に対する姿勢を明確にすることには及び腰に見える。

 翻って自民党を中心にテレビで有名になった人々が国会議員になることは珍しくない。中にはワイドショーの司会者やコメンテーターとして出ていた人もいる。共産党のホームページでも、議員の出演番組が予告される時代である。もはや政治とテレビは切っても切れない関係である。

 あなたの見ているワイドショーは、誰かにとって都合のいいものになっていないだろうか。目を凝らして見たほうがいい。


■パオロ・マッツァリーノさんプロフィール
覆面作家。日本文化史研究家。著書に『反社会学講座』『続・反社会学講座』『誰も調べなかった日本文化史』(以上、ちくま文庫)、『「昔はよかった」病』(新潮新書)、『サラリーマン生態100年史』(角川新書)、『思考の憑きもの』(二見書房)などがある。





 


  • 書名 読むワイドショー
  • 監修・編集・著者名パオロ・マッツァリーノ 著
  • 出版社名筑摩書房
  • 出版年月日2023年2月 7日
  • 定価946円(税込)
  • 判型・ページ数新書判・256ページ
  • ISBN9784480075130

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