NHKの人気番組「ブラタモリ」の影響なのか、地形や地質に関心を持つ人に向けた本が相次いで出版されている。本書『なぜ、その地形は生まれたのか?』(日本実業出版社)もその1つだ。日本列島各地の面白い地形や成り立ちが興味深い地形80カ所を取り上げている。
著者の松本穂高さんは、茨城県立竹園高校教諭。信州大学、北海道大学大学院で地理学を専攻。博士(環境科学)。地理普及の功績により、2018年度日本地理学会賞受賞。国内外でフィールドワークを行うとともに、筑波山ジオパーク認定ガイドとして活動している。著書に『世界を歩いて謎を解く 自然地理のなぜ!?48』などがある。
松本さんは多くの国を訪ね歩き、調べた経験から、「日本の自然景観は世界一」と断言する。第1のポイントは、その変動性だ。4つのプレートがせめぎ合う場所に、日本列島は位置しているため、大地は常に動いている。こうした変動する大地が、景観の多様性をつくり出しているのが第2のポイントだ。さらに、そうした多様な自然景観が、限られた範囲に詰まっているコンパクトさを第3のポイントに挙げている。
たとえば、首都圏にある江の島では、海岸で海水浴ができる一方、車で数時間も行けば、尾瀬の高原でハイキング、また冬には中禅寺湖で雪の風景に出合える。多様な自然がこれほどコンパクトに詰まっている国は、日本のほかにないという。
こうした地形の多様性を山、川、海岸、平野、人間とかかわる地形の5つの章に分け、全部で80地点を紹介している。47都道府県すべてにわたっているので、自分の住んでいる近くの地形も出てくるだろう。
ここでは、最近ニュースに登場した場所や大都市に近い地点をいくつか紹介しよう。
今年4月(2022年)北海道知床半島で発生した遊覧船事故。海岸線は断崖が続く難所で、だからこそ観光ポイントにもなっているのだが、人を寄せつけないのは、「半島そのものが一つの山脈」だからだ、と説明している。
知床半島の山脈は、太平洋プレートが沈み込む際に陸地側の隆起によって出来た。高まりができる際、地殻が薄くなったところにマグマが入り、火山噴火が起きた。羅臼岳や硫黄山である。
山脈が海の上に顔を出している知床半島は、その厳しい地形のために開発が進まず、ありのままの自然が残り、世界自然遺産にも登録された。
今年7月24日に噴火警戒レベルが3から5(避難)に引き上げられた、鹿児島県の桜島は、日本で最も活発な火山だ。2020年には432回の噴火を記録した。桜島は2万9000年前に破局的な噴火によって出来た姶良(あいら)カルデラの南の縁に、2万6000年前に誕生した。
以来、噴火を繰り返し、1914年の噴火では、流れ出した溶岩が東側の海を越えて大隅半島に達し、陸続きになった。活動が活発なのは、火山帯にあるからだ。九州周辺では、東側から移動してくるフィリピン海プレートが沈み込むことで火山フロントが出来ている。
こうした被害があるにもかかわらず桜島の周辺に人間が暮らすのは、恵みがあるからだ、と説明している。シラス台地の火山灰土壌は貧栄養だが、水はけの良さを活かして、サツマイモの栽培が出来る。また、カルデラの底にあたる鹿児島湾は、浅海から深海まであるため、魚の種類が豊富だ。
東京都と神奈川県の間を流れる多摩川には、「丸子」や「等々力」などの地名が両岸にある。多摩川は洪水の多い暴れ川で屈曲しているところが多く、氾濫を避けるため、人工的に直線化された。このように川の流れを変える「瀬替え」が行われた結果、同じ地区が東京と神奈川に分断され、地名も両岸に残ることになった。
大阪平野を流れる淀川はなぜ広いのか? 淀川は流域面積が大きいからだ。淀川の流域には、琵琶湖を含めた滋賀県全域が入り、支流の木津川を含めると、大阪・兵庫・京都・滋賀・奈良・三重の6府県にまたがる。
流域面積は利根川のおよそ半分だが、流域に入る都道府県の数は、利根川と並び全国最多だ。大雨で流量が多いとき、水は川幅いっぱいに広がる。こうした洪水時に水が流れる場所が河原だ。ヨーロッパの河川には、河原がほとんどない。それは、年間の流量があまり変わらないからだという。
堤防を隔てて、住宅地と広々とした河原が隣り合う風景は、日本の大都市を流れる河川の特徴だそうだ。
秋田県の男鹿半島の目潟や京都府の天橋立の砂州など、「ブラタモリ」に登場した地形も数多く取り上げている。
自然災害の多い日本。本書を通じて、多くの人が「自然地理」に興味を持つことは防災にもつながるだろう。学校で習う地理用語は赤字で強調し、解説しているので、地理好きの中学生、高校生の副読本にもふさわしい1冊だ。
BOOKウォッチでは関連で、『教養としての「日本列島の地形と地質」』(PHP研究所)、『地形散歩のすすめ――凹凸からまちを読みとく方法』(学芸出版社)、『三つの石で地球がわかる』(講談社ブルーバックス)などを紹介済みだ。
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