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中国が日本を作り、日本が中国を作った 目からウロコの日本史

中国史とつなげて学ぶ 日本全史

 中国はなぜ、いまの社会主義国になったのか。そして、日本はなぜ、今日のような政治社会の中で天皇制を維持しているのか。

 この両方の問いに答えるように、世界史的スケールから近現代史に焦点を当てて書かれたのが、岡本隆司さんの『中国史とつなげて学ぶ 日本全史』(東洋経済新報社)だ。2022年度から高校で新科目「歴史総合」の授業が始まったが、その格好の副教材になりそうだ。日本史をとかくNHK大河ドラマのような愛憎劇や歴史トリヴィアの視点でほじくることを好む日本人へのアンチテーゼにもなっている。

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 岡本さんは、東洋史、近代アジア史を専門とする京都府立大学教授で、東洋学の専門図書館としては日本最大級の公益財団法人東洋文庫の研究員でもある。東洋史、中国史をテーマとした著作を精力的に出し続けているが、日本史を中心に据えた本は珍しい。しかし、本作は日本を主語にして中国史・東洋史を書くことで、日本史に対する見方が変わり、地球規模の気候変動も含めて世界史・東洋史と日本史との必然的なつながりが頭に入ってくる。

鎌倉幕府とモンゴル帝国の誕生と消滅には共通点があった

 岡本さんは、鎌倉幕府と、ほぼ同じ時期に成立した中国の元、いわゆるモンゴル帝国について、その誕生と消滅の背景には、気候変動という共通項があるという。地球規模の温暖化が政治的に重要なテーマとなっている現代において説得力がある指摘だ。のちに「元寇」という形で衝突する両政権だが、これについても教科書のステレオタイプとは違い、軍事的には対決しながら、その後の文物の交易は途絶えなかったことを指摘し、現在も「政冷経熱」といわれる日中の基本構造が13世紀にもあったことを教えてくれる。

 中国はいま、日本人にとって、身近であり、かつ厄介な国のひとつだろう。『キングダム』や『三国志』などの古代中国をテーマにした漫画や映画に若者も熱狂し、大量のメイド・イン・チャイナを消費することが普通になった。一方で、中国共産党による支配が貫徹し、海洋進出や台湾問題という形で、日本を含む周辺地域に緊張を引き起こし、ウイグルや香港などでの人権弾圧が国際的に指摘される。

 「私たちとは異なる国」として日本では描写されることが多い中国だが、誰もが認めるように、古代から近世までの日本の歴史は、この中国から大量の文化、制度、技術を導入し、自国化していく過程だったといっていい。今読んでいるこの文章も、もとはといえば甲骨文字が元になった漢字とそこから派生した仮名(かな)だ。その間、中国は2000年以上、皇帝が君臨していたアジアの強大な王朝国家だった。その関係が逆転するのは今から150年ほど前で、今度は日本から西欧の概念を翻訳した和製漢語、「国民」「憲法」などが中国に逆輸入されている。

 現在、その中国では、王朝は途絶え、共産党が14億人を統治する世界第2の経済大国、中華人民共和国に変貌していて、清までとは全く別の国のようにも見える。しかし、これほどの短期間で国のありようがすべて変わるはずがなく、「中国」という歴史の岩盤は続いている。中国共産党を新たな王朝となぞらえるのも無理なたとえではないだろう。

明治憲法をモデルにしていた清朝

 現代に至る中国に明治維新以降の日本が密接に絡んできたこと、最初の問いに戻れば、今の中国も日本も、平時・戦時を含めて極めて濃密にお互いを参照し、直接間接の影響を受け合いながら今日に至っていることを、多くの例証をあげながら本書は解き明かしていく。

 日清戦争が終わったあとも、日中関係は比較的良好で、留学生の往来はむしろ盛んになった。清朝が1908年に立憲政治を目指して作った試案「憲法大綱」の冒頭は「大清皇帝は大清帝国を統治し、万世一系、永永尊戴(そんたい)される」と、「大日本帝国憲法」(1889年)とほぼ同じ書き出しで、清朝が当時の日本の立憲君主制をモデルにしたことが明らかだという。

 また、日本が1932年、中国東北地方に清朝の王族の末裔を擁して満州国を建国した時のスローガン「五族協和」は、清朝が倒れた辛亥革命(1911年)の際、孫文などの革命派が掲げたスローガン「五族共和」が原典になっているという。前者がモンゴル人、漢人、満州人、朝鮮人を日本人が主導権を握って満州国を運営するという理念だったのに対し、後者は、チベット人、モンゴル人、ウイグル人、満州人に漢人が加わって「中華民族」として一体になるという理念で、当然、中心は漢人である。日本は、辛亥革命の理念の漢人を日本人に置き換えて、傀儡国家の旗印としたわけだ。

 岡本さんは、「余談ながら」として、辛亥革命時の方針を、現在の習近平政権も踏襲しているのは周知の通り、としている。中国の政治体制の変遷にかかわりなく、「五族共和」は110年以上貫かれていることになる。

 日本の歴史を学ぶことは、中国史のみならず、台湾、韓国、琉球の歴史を学ぶことでもあるということを、本作は事実を挙げて示唆する。姉妹書の『世界史とつなげて学ぶ 中国全史』と併せて読めば、日本史を大きなスケールの地球儀から眺められるだろう。



  • 書名 中国史とつなげて学ぶ 日本全史
  • サブタイトルA Brief History of Japan
  • 監修・編集・著者名岡本 隆司 著
  • 出版社名東洋経済新報社
  • 出版年月日2021年11月 4日
  • 定価1760円(税込み)
  • 判型・ページ数四六判・266頁
  • ISBN9784492062180

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