40度近くもあろうかという猛暑日に、炎天下で交通整理をしているお年寄りを見ると、熱中症になるんじゃないかと心配になる。若者でもキツイ仕事なのに、体力の落ちた高齢者にはさぞつらいだろう。にもかかわらず、警備業界のデータによると、60歳以上の警備員が全体の45%を占めるという。「死ぬまで働く」日本では、もはや当たり前の光景となりつつあるのかもしれない。
7月25日に発売された『75歳、交通誘導員 まだまだ引退できません』(河出書房新社)は、7万部超の大ヒットとなった前作『交通誘導員ヨレヨレ日記』(三五館シンシャ)の続編だ。著者は、1946年生まれの柏耕一さん。出版社勤務後、編集プロダクションを設立したものの、「ワケあって」66歳で交通誘導員になり、75歳になった今も働き続けている。
交通誘導員は「ただ立っているだけ」ではない。厳しい暑さ・寒さに耐えながら、一歩間違えば人身事故と隣り合わせの仕事だ。片側交互通行中にヒヤッとしたり、未熟なドライバーに慌てたりすることもしばしばだが、なんといっても歩行者やドライバー、近隣住民からの「クレーム」は絶対に避けなければならない。ささいなクレームに交通誘導員が適切に対応できなかったがために事が大きくなり、工事が何日間も中断することさえあるからだ。そうなれば、以降、当人はその現場では働けなくなるし、所属する警備会社も信頼を失う。
「私が所属する警備会社は70代以上が80%」という柏さん。同僚には85歳の人もいるが、彼らは働く理由を、口をそろえて「おカネのため」という。そして、はなから相手を見下す者、やる気のない者、不正を働いて責任を部下になすりつける者......。有名企業を辞めて警備員を始めるなどワケありの人もいる。いい人もいれば悪い人もいるのが世の常だが、さまざまな前歴・前職を持つ人間が集うこの世界では、それがはっきりと顕在化するのだ。ひとたび「合わない」となると、人間関係のストレスは案外大きい。本書は、前作を上回る濃度の「人間ドキュメント」が見どころだ。
働く人たち自身が「最底辺の職業」と自嘲する、交通誘導警備員の知られざる実態を垣間見ることのできる一冊。誰にとっても他人事ではない社会問題が凝縮されている。
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