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揺れる50代。私たち、これからどうすればいいんですか――? 坂東眞理子さんに聞く

女性の覚悟

 現在、50歳前後の女性は、就職氷河期の真っただ中で社会に出た世代だ。やむを得ず非正規の職に就いた人もいれば、正社員として就職しても、結婚や出産をきっかけにキャリアを諦めた人も。
 そして今、人生の後半を迎えた女性たちは、漠然とした不安に駆られている。これまで私は何をしてきたのだろう、これからの人生、どうなってしまうのだろう......と。

 7月2日に新著『女性の覚悟』(主婦の友社)を上梓した昭和女子大学理事長・総長の坂東眞理子さんは、そんなアラフィフ女性に必要なのは、「覚悟」だと言う。70歳を過ぎてなお、私たちの前を走り続ける人生の先輩が今、伝えておきたかったこととは。著書に込めた思いを伺った。

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坂東眞理子さん

「貧乏ばあさん」にならないために

――なぜ今、アラフィフ世代の女性に向けた本を書こうと思われたのですか?

坂東 女性の50歳って、いろいろなことを諦めてしまいがちな年齢だと思うんです。仕事に限界が見えてきたり、子育てがひと段落ついたりして、「自分はもう終わった」と思い込んでしまう。
 でもね、今の50歳の女性の平均余命って40年近くあるんですよ。余生というには長すぎるし、昔と違って「あとは誰かに養ってもらおう」なんて考えていたら立ち行かなくなって、「貧乏ばあさん」ばっかりになっちゃう。自分のことは自分で養う覚悟を持ってほしくて、そのために私の経験や反省が役に立てばと、この本を書きました。

――坂東さんご自身は50歳のころ、不安はありませんでしたか?

坂東 当時は私も「人生の盛りを過ぎた」と悲観的でした(笑)。これからは下り坂をおりていくだけか、と先行きが不安でしたし、50代後半で公務員をやめて大学に移った時も、新しい世界で通用するのか、自信が無く不安でした。
 今から考えると、あの頃はまだまだ若かったんだって思うのだけれど、当時は「50歳」という年齢に対する思い込みがあったのね。だから、今の50代の女性には、まだまだこれからなんだよって、声を大にして言いたいです。

――44年前に、初めてのご著書『女性は挑戦する-キャリア・ガールの生き方』を出されています。当時と今とでは、女性を取り巻く状況は変わったと思われますか?

坂東 女性が働き続けるための制度やインフラが整ってきた一方で、性別役割分担意識は、いまだ変わっていないと思います。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれた当時の経済成長をもたらしたのは、男性中心型のシステムでした。男性が外で働いて、女性が支えるという役割分担は、あの時代はうまく機能したのですが、そのやり方にこだわって足踏みをしているうちに、どんどんほかの国に追い越されてしまった。それは、女性が活躍できる新しいシステム作りに失敗したからにほかなりません。
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出版記念講演会で女性に「覚悟」を説く坂東さん

坂東 男性が悪い、社会が悪いという見方もできるけれど、私はやっぱり女性も覚悟が足りなかったのだと思います。「女性が家事・育児をするのは当然」「女性だから無理して頑張る必要はない」といったアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)は女性自身にもあって、自らの意欲や可能性を抑え込んでしまったのです。
 2022年の世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数によれば、日本女性の地位は146か国中116位。私たちの世代の覚悟が足りず、女性が生きやすい社会を次の世代に渡せなかったことを、申し訳なく思っています。

――では、今の私たちの世代はこれから、どんな「覚悟」を持って生きていけばよいのでしょうか?

坂東 まずは、自分を大切に生きることです。利己的になれということではなく、自分を貶めない、粗末に扱わないということです。チャンスが巡ってきても、「どうせ自分なんて」とはなから諦めてしまうのは、自信のなさの表れでもあるのね。やればできるのに、なぜそこで妥協しちゃうのよ!って思う女性が、まだまだ多い気がします。
 自分がやってもうまくいかないと思い込んでいるのは、現実から目をそらしている部分もあるんじゃないかな。これからは、しっかりと現実を見て、自分の人生は自分で生きるんだと覚悟を決めてほしいのです。それがこの本の帯にもある「覚悟10訓」のひとつ、「人生の責任者になる」ということです。
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「覚悟」10訓

まずは自分で自分をいたわること

――「覚悟10訓」には、「生涯働く」ともあります。ただこの年齢になると、そろそろ親の介護の心配も出てきて、働き続けられるか不安です。

坂東 介護は先が見えないので、責任のある仕事を引き受けるべきではないと考える人もいますが、それはもったいない。介護も育児と同じように、経済力があれば負担が軽くなります。
 私の友人に、一人娘で、お母様の介護が必要になった時、自分で調べて一番良いと思った施設に入居させた人がいます。その代わり、1日2回の電話は欠かさず、頻繁に会いにも行っていました。最後まで仲の良い親子でいることができて、お母様も「娘のおかげ」と、とても感謝しておられたそうです。

 介護休暇は、親を最期まで看取るための時間ではありません。大切な自分の親のために、どんな介護サービスを利用したら一番良いのか、調査し体制をつくりあげるための時間だととらえてください。
 そのうえで、自分は経済力を持って、在宅介護サービスを利用するなり、良い施設に入居してもらうなりして、親の年金が足りない分を補う。そして、できるだけ頻繁に訪問するのが現代の親孝行だと私は思います。自分だけで抱え込んではいけません。

――そう聞くと、親を施設に入れることへの罪悪感が軽くなる気がします。

坂東 「他人に親の介護を任せてはいけない」という思い込みは、「育児は母親だけの責任」というのと同じで、女性の人生を縛ります。親に「施設に入りたくない」って言われるとね、本当に困ってしまうけれど、そこは説得しないといけません。精神的に支えて信頼してもらう、抱え込んで共倒れにならないことが最優先です。
 中には今の仕事が楽しくないから親の介護を機会に早期退職するという人もいますが、それは絶対にしないこと。自分がお金を稼いで親の介護を支えると覚悟をしましょう。

――「自分をいたわる」ということも、女性は後回しにしがちです。

坂東 そうですね。私がこんなに頑張っているんだから、周囲の人にもっといたわってほしい、と思うでしょうけれど、まずは自分で自分をいたわってあげましょう。相手に想像力や思いやりを期待する前に、自分で自分を労り励ましましょう。
 私は、自分と未来は変えられるけど、他人と過去は変えられないと思っています。自分を変えるのも難しいけれど、おすすめしたいのは、物事の見方を変えること。ここが足りない、うまくいかないと考えるのではなく、100%完璧にできるはずはないのだから、6割でもできたら上出来、ここが良くなった、ここは次に生かそうというように、同じ物事でも見方を変えるといいですよ。すると行動が変わり、自分に自信を持つことで、未来への不安も薄れていくと思います。
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『女性の覚悟』(主婦の友社)

■坂東眞理子さんプロフィール

ばんどう・まりこ●昭和女子大学理事長・総長。1946年富山県生まれ。東京大学卒業後、総理府入省。95年埼玉県副知事。98年オーストラリア・ブリスベン総領事。2001年内閣府初代男女共同参画局長を務め03年に退官。04年昭和女子大学教授、同大学女性文化研究所長。07年に同大学学長、14年理事長、16年から現職。著書に300万部を超えるベストセラーの『女性の品格』の他『70歳のたしなみ』『幸せな人生のつくり方』他多数。20代から仕事と執筆を精力的につづけながら、同時に出産、子育て、転職、親の介護、孫の育児手伝いなども経験。趣味は読書、短歌。


 
  • 書名 女性の覚悟
  • 監修・編集・著者名坂東眞理子 著
  • 出版社名主婦の友社
  • 出版年月日2022年6月30日
  • 定価1,350円(税込)
  • 判型・ページ数B6変、256ページ
  • ISBN9784074518890

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