「月2万円の貯金。新しい洋服は買わず、食費を削り、節約を重ねてでも欲しいものがあった――。」
節約家族小説『三千円の使いかた』が60万部超のベストセラーとなっている、今大注目の原田ひ香さん。
原田さんの最新刊『財布は踊る』(新潮社)のテーマは、「お金のつくりかた」。さまざまな事情で「今より少し、お金が欲しい......」人たちの「生活に根差す切実な想いと希望」を描いている。
会社の同僚と平凡な結婚をし、ひとり息子にも恵まれ、専業主婦として穏やかに暮らす葉月みづほ。ある夢を実現するために、夫から渡される月5万円の生活費を切り詰め、人知れず毎月2万円を貯金していた。2年以上の努力が実った喜びも束の間......。
本書は、「財布は疑う」「財布は騙(かた)る」「財布は盗む」「財布は悩む」「財布は学ぶ」「財布は踊る」の6話構成。まるで財布が生きているかのような見出しが並ぶ。
ブランド物の財布が欲しくて1円の出費も惜しむ、子育て中の専業主婦。FXの情報商材の勧誘をしている、Fラン大中退の男。株の投資で大損し、犯罪に手を染める元会社員。仕事も私生活も行きづまっている、元風水ライターのお財布アドバイザー。奨学金返済が重くのしかかる、契約社員のアラサー女性。
本書では、1つの財布が重要な役割を担う。追いつめられた登場人物たちは、同じ1つの財布を手に入れては、わけあって手放すこととなる。その財布は不思議なことに、持ち主になんらかの変化をもたらしたら、また次の持ち主のもとへと渡っていく。
ここでは、「第一話 財布は疑う」を紹介しよう。
「葉月みづほはルイ・ヴィトンの財布が欲しい」という一文で始まる。みづほの最高の楽しみは、節約雑誌を発売日に図書館で読むこと。ある日、スーパーで買った食材は、特売で100グラム38円の鶏胸肉、1袋19円のもやし、1パック133円の卵だった。
みずほの中には、学生時代に買えなかったヴィトン、新婚旅行で行けなかったハワイへの未練があった。それで2年近く、ある計画を練っていた。5万円の生活費から、2万円を貯金。60万円を超えたら、夫にハワイ旅行を提案。そして、ハワイでヴィトンを買うのだと――。
みづほの夢は叶った。家族でハワイへ行き、そこでヴィトンの長財布(お値段10万円)を買った。無料で名入れをしてくれて、「私だけのお財布......」とみづほは感激していた。
「お金を貯め始めた頃からずっと夢見てきた。自分がヴィトンの財布を買う時はどんなふうに『これ、ください』『これ、いただきます』と言うんだろうと。(中略)『これ。買ってもいいですか』こわごわと震える声になってしまった」
ところが、ハワイから帰って少しした頃、葉月家に暗雲が立ち込めた。夫のクレジットカードの請求額がありえないほど少ないことに、みづほが気づいたのだ。ハワイでかなり散財したというのに......。頭の中で「何かがおかしい、とちかちかと警告灯」が瞬いていた。
カード会社に問い合わせ、請求額が少ない理由が判明。そこから怒濤の日々が始まった。夫婦で金策に走った。もったいなくてまだ1度も使っていなかったヴィトンの長財布も、メルカリで売ることになってしまった。別れの前に、みづほは長財布を頬に押し当て、匂いを嗅ぎ、心の整理をした。
「いつか必ず、見返してやりたいという気持ちがわいてきた。それは、財布に群がった人々なのか、この財布そのものなのか、お金なのか、カード会社なのか。夫なのか、夫の親なのか、自分自身なのか」
第二話以降、さまざまな人物が登場し、それぞれのお金と人生をめぐる物語が展開していく。もちろん、みづほもこのままでは終わらない。みづほはどん底からはい上がれるのか。ヴィトンの長財布はどこへ行くのか。しかと見届けてほしい。
じつは原田さん自身、節約雑誌を好んで読んでいるのだとか。ストーリーに引き込まれているうちに、節約術、お金の知識、処世術が自然と身につく。おもしろくてためになる、一読の価値がある作品。
本書の試し読みができる特設サイトはこちら。
■原田ひ香さんプロフィール
1970年神奈川県生まれ。2005年「リトルプリンセス2号」で第34回NHK創作ラジオドラマ大賞受賞。07年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。著書に『三千円の使いかた』『そのマンション、終の住処でいいですか?』『古本食堂』『一橋桐子(76)の犯罪日記』『ランチ酒』『事故物件、いかがですか? 東京ロンダリング』『人生オークション』『母親ウエスタン』『彼女の家計簿』『ミチルさん、今日も上機嫌』『三人屋』『ラジオ・ガガガ』などがある。
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