「地元の銘菓、ババシャツ、靴下、お米。こんなにたくさん。こっちでも買えるって言ってんのに。」
「節約」家族小説『三千円の使いかた』(中公文庫)がベストセラーとなっている原田ひ香さん。本書『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』(中央公論新社)もまた、タイトルからして興味をそそられる。
送られる側は「わかるわー!」と共感し、送る側は「え、ダサいと思われてたの?」とどきっとすることだろう。ただ、この「ダサい」には好意的な意味合いが多分に込められている。
「昭和、平成、令和――時代は変わっても、実家から送られてくる小包の中身は変わらない!? 業者から買った野菜を『実家から』と偽る女性、父が毎年受け取っていた小包の謎、そして、母から届いた最後の荷物――。家族から届く様々な≪想い≫を、是非、開封してください。」
本書は「第一話 上京物語」「第二話 ママはキャリアウーマン」「第三話 疑似家族」「第四話 お母さんの小包、お作りします」「第五話 北の国から」「第六話 最後の小包」からなる短編集。
ここでは、こんな小包だろうな、ほっこりしそうだな、という予想をいい意味で裏切られた話を2つ紹介しよう。
「第五話 北の国から」の主人公・拓也は24歳。10年ほど前に母を亡くし、2ヶ月前に父を亡くした。身内は、父が幼い頃に生き別れた祖母のみ。しかし、祖母がどこにいるのか、今も生きているのかはわからない。「ついに、自分は天涯孤独の身の上になったのだ」
父がいなくなった広島の実家で、使用済みの宅配便の伝票が重ねて置いてあることに気づいた。すべて北海道の羅臼からで、送り主は「槇恵子」、品物は「昆布」と書かれていた。
それは拓也が生まれる前から、お歳暮の季節に送られてくるものだった。生前、母はおせち料理に使ったり近所にくばったりしていた。ただ、伝票はどれも母が亡くなってからのものだった。
拓也はここ何年も、父とほとんど会わず、たいした話もしていなかった。「槇恵子」とは誰で、父とどんな関係なのか。生き別れた祖母なのか。父が、母にも拓也にも話さなかったこととは――。
「その時、ふっと思った。自分は本当に親のこと......親たちのことをほとんど知らないまま別れてしまったんだなあ、と」
「第六話 最後の小包」の主人公・弓香は、新大阪駅からのぞみに乗り込んだ。自分を取り巻くすべてにイライラしていた。
母からの「なんだか風邪気味なのよ」というLINEにも、翌日の「インフルエンザだって」というLINEにも、「お大事に!」のスタンプを送った。
その後、母の再婚相手から電話がかかってきた。ずっと無視していたが、仕方なく出ると「容態が急変した。肺炎になってICUに入りました」と言われた。そして昨夜、母は亡くなった。
母は50代で再婚し、千葉で暮らしていた。母がやっと手に入れた「幸福」だったのかもしれないが、どうしても「裏切られた」という思いがわいてきて、祝福する気になれなかった。弓香は大阪勤務になってから、母とは月1回のLINEのやり取り(弓香はスタンプのみ)くらいで、ここ数年ほとんど会っていなかった。
再婚相手とその連れ子が集まり、通夜が行われた。弓香はどうしても泣けず、ただただ、心が冷めていく。そして「このまま、帰ろうか」と思った。
「ずっと母とろくに連絡を取らなかった。メッセージやメールにも素っ気ない態度を取ってきて、盆暮れも帰らなかった。ここで、数時間の親不孝を重ねても、もうなにも変わらないだろう」
弓香は告別式に出ず、大阪に戻った。ポストに宅配便の不在通知が挟まれていた。それを見て「え、えええ?」と驚いた。なんと、送り主は亡き母だった。
「母からの宅急便......いったい、中身はなんだろう。届いたのは弓香が東京に向かった日......新幹線に乗っていた時間だ。前日の夜には亡くなっていたのだから、前々日くらいに発送したのだろうか」
「こんなのいらない」「送らなくていいのに」などとつぶやきながら、じつは嬉しくてじんとくる。家族から送られてくる小包ってそういうものだよなぁ、とあたたかい気持ちになった。送られる側の時はあれこれ小言を並べても、いざ送る側になったら、大切な誰かを思って「ダサい」ものを詰めてしまうものなのかもしれない。
■原田ひ香さんプロフィール
1970年神奈川県生まれ。2006年「リトルプリンセス二号」で第34回NHK創作ラジオドラマ大賞受賞。07年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。他の著書に『一橋桐子(76)の犯罪日記』(徳間書店)、「三人屋」シリーズ(実業之日本社)、「ランチ酒」シリーズ(祥伝社)、『三千円の使いかた』(中公文庫)など多数。
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