5月20日に発売されたアンソロジー『沈みかけの船より、愛をこめて』(朝日新聞出版)は、他のアンソロジーにはない一風変わった秘密をもっている。
作品を寄せたのは、『ZOO』『GOTH』などの乙一さん、『百瀬、こっちを向いて。』『くちびるに歌を』などの中田永一さん、『エムブリヲ奇譚』『私の頭が正常であったなら』などの山白朝子さん。さらに、全ての作品に映画監督・脚本家の安達寛高さんによる解説がつき、計4名がアンソロジーに参加している。
離婚を決めた両親を"査定"する子どもと、その驚くべき結末を描いた表題作のほか、時間跳躍を繰り返す男の物語「地球に磔にされた男」、山道で出会ったゾンビとの死闘が繰り広げられる「カー・オブ・ザ・デッド」、少女と彼女の体に生まれた人面瘡の奇妙な交友を描く「二つの顔と表面 Two faces and a surface」など、幻想的・叙情的な全11編の短編が収録されている。
【目次】
五分間の永遠.........乙一
無人島と一冊の本.........中田永一
パン、買ってこい.........中田永一
電話が逃げていく.........乙一
東京.........乙一
蟹喰丸.........中田永一
背景の人々.........山白朝子
カー・オブ・ザ・デッド.........乙一
地球に磔にされた男.........中田永一
沈みかけの船より、愛をこめて.........乙一
二つの顔と表面 Two faces and a surface.........乙一
作品解説.........安達寛高
記事冒頭で触れた「秘密」のことだが、実は乙一さん、中田永一さん、山白朝子さん、安達寛高さんは同一人物。本書は、いくつもの顔をもつ作家が4つの名義で繰り広げる「ひとりアンソロジー」だ。
それぞれの名前で、作風がどう違うのか。本当の顔はどれなのか。本当の作者など本当はいないのか......。そんなことを考えながら読むのも面白いかもしれない。
収録作品の中から、中田永一さんの「無人島と一冊の本」が、「朝日新聞出版さんぽ」noteにて、2022年5月29日まで期間限定で公開されている。安達寛高さんによる解説を見てみよう。
解説/安達寛高【期間限定公開!】乙一、中田永一、山白朝子、安達寛高『沈みかけの船より、愛をこめて』
地域雑誌に寄稿されたショートストーリーの一本。無人島に漂着した男が、奇妙な猿たちと出会って交流する話。宗教的な寓意を含んでおり、キリスト教的な内容かもしれない。映画『2001年宇宙の旅』におけるモノリスと人類の祖先とが出会う場面のオマージュのようでもある。作者にとってお気に入りの一本とのこと。
無人島に男が流れ着いた。一緒に打ち上げられていたのは、船長の百科事典。島には賢い猿たちが住んでいた。男は猿たちに帰るための船をつくらせようと思い、百科事典を使って猿たちに言葉や技術を教える。寓話的なこの短編は、中田さんのお気に入りなのか、安達さん(こちらは本名)にとってもお気に入りなのだろうか、それとも......。
今回は4名義だが、2019年に発売された『メアリー・スーを殺して』(朝日新聞出版)は、なんと「越前魔太郎」名義も参加した1人5役アンソロジーだ。こちらもあわせて、安達寛高ワールド(もうどう呼べばいいのかわからないが......)を楽しみたい。
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