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これは認知症大国・日本の近未来か。終盤は怒涛の展開!

アルツ村

 老老介護、ヤングケアラー、介護破綻......。

 本書『アルツ村』(講談社)は、現役医師作家の南杏子さんが認知症の「いま」に斬り込むメディカル・サスペンス。

 2025年には65歳以上の5人に1人、700万人が認知症になると推計されているという。認知症を引き起こす疾患の中で最も多いのが、アルツハイマー型認知症。

 アルツハイマー型認知症について、本書には「病気の進行期間は十年。最初の三年は『時間』、次の三年は『場所』、最後の三年は『人』が記憶できなくなる......」とある。

 世界一の認知症大国、日本。人生を否定される患者。生活を破壊される家族。高齢者だけが身を寄せ合って暮らす山間の村。そこは楽園か、遺棄の地か。

奇妙な村だった

 三宅明日香、39歳。元看護師。札幌市在住。数年前から夫・卓也との生活がぎくしゃくしている。最初のきっかけは、明日香の体調不良だった。ひどい頭痛や疲労感に襲われ、立ちくらみに悩まされていた。好不調の波も激しかった。卓也の暴言、暴力は激しさを増していった。

 明日香は夫の元を離れることを決意する。7歳の娘・リサを連れて。午前零時、夫が眠っているのを確認して家を出た。行き先は考えていなかったが、車をひたすら飛ばした。

 迷い込んだ山奥に小さな村があった。集落のある方へ進むと、「村の境界線」のような金属柵が。乗り越えようと柵に手をかけた瞬間、明日香は意識が遠のいた――。

 気がつくと、そこに気難しい顔をした老齢の男性がいて、「なっちゃんはいつ帰ってきたんだ?」と言った。「なっちゃん」とは、男性の孫の「夏美」のことだった。明日香は「なっちゃん」のふりをして、この家でしばらく身を隠すことにする。

 「奇妙な村だった。そもそもここが何という村なのかも分からない。けれど、確実なことが一つ。行きがかり上、『夏美』になった明日香は、とにもかくにも卓也の暴力から逃れ、ひとときの平穏を手に入れたということだ」

強烈な違和感の理由

 そこはずいぶん高齢者が多い村だった。

 明日香がすれ違う住民たちに「村の出口はどこでしょう?」と尋ねても、「さあ」という答えしか返ってこない。スマホの電波状況もよくない。木陰には電流が流れる金属柵が設置されている。村を出ることは容易ではなさそうだ。

 村に来てまもなく、明日香は違和感を持った。

 たとえば、住民の便利屋のような「バンショウ」と呼ばれる人々の存在。かみ合っているような、すれ違っているような感じの住民同士の会話。道端に座り込み、「ヒトゴロシ!」と叫びながらつえを振り回す高齢女性......。

 「この村は何かおかしい。その強烈な違和感の理由が分かってきた。明日香がこの村で会った人は全員、認知症なのだ。にもかかわらず、皆がそれなりに楽しく暮らしているのも確かだった」

 そう、そこは「自立型の住宅で暮らす、生活ケア付きの高齢者コミュニティー」だったのだ。入村者は全員がアルツハイマー病をはじめとする何らかの認知症を患っていて、「アルツ村」と呼ばれていた。

終盤は怒涛の展開

 本書は本編と本編の間に、週刊誌記者による「アルツ村」の【取材メモ】を挟んだ構成になっている。【取材メモ】には、認知症の家族を介護した人の声も記録されていた。

 「一昔前には想像もつかなかった人生の重荷ってやつですよ」
 「捨てたくなくても、ね。捨てざるを得ない状況」
 「お願いですから、これ以上、私を追い詰めないでください」

 一方で印象的だったのが、「アルツ村」の住民のこのセリフ。

 「住んでいた家を追い出され、希望したわけでもないのに北の村に移住させられ、その後は家族も会いに来ない。あとは死ぬまでこの村にいるだけ――それがアルツ村ですよ。認知症患者の姥捨て村以外の何物でもない。棄老(きろう)の村と言ってもいい」

 認知症にかんするくわしい記述。患者と家族、双方の立場からの心理描写。こうしたところに、医師という著者のバックグラウンドが色濃く出ている。


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 明日香は、この一見平和な村に隠された「大きな秘密」に気づき始める。「アルツ村」の真の目的とは何か――。

 読みながら4回ほど、大きく「え?」となった。とくに終盤は怒涛の展開で、ページをめくるペースが加速した。これは認知症大国・日本の近未来かも......と思えてきて、空恐ろしくなった。


■南杏子さんプロフィール

 1961年徳島県生まれ。日本女子大学卒。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入。卒業後、慶應義塾大学病院老年内科などで勤務したのち、スイスへ転居。スイス医療福祉互助会顧問医などを務める。帰国後、都内の高齢者向け病院に内科医として勤務するかたわら『サイレント・ブレス』で作家デビュー。他の著書に『ディア・ペイシェント』『いのちの停車場』『ヴァイタル・サイン』などがある。


※画像提供:講談社



 


  • 書名 アルツ村
  • 監修・編集・著者名南 杏子 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2022年3月28日
  • 定価1,870円(税込)
  • 判型・ページ数四六変型判・386ページ
  • ISBN9784065266588

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