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「左翼」に可能性はあるか? 池上彰×佐藤優の歴史シリーズ完結。

漂流 日本左翼史

 ジャーナリストの池上彰さんと作家の佐藤優さんが、戦後日本の左翼の歴史を語り合うシリーズが、本書『漂流 日本左翼史』(講談社現代新書)で完結した。『真説 日本左翼史』(同)、『激動 日本左翼史』(同)に続くもので、1972年から今年までを扱っている。左翼は後退していったが、ウクライナ戦争によって左翼的価値がもう一度、見直される可能性があると佐藤さんは考えている。

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 ざっとシリーズを振り返ると、こうなる。第1巻『真説 日本左翼史』では、戦後から1960年の安保闘争の頃に照準を合わせて、日本共産党と日本社会党という二大左派政党の盛衰を概観した。第2巻『激動 日本左翼史』では、既存の左翼政党への不満から生まれた新左翼が、60年代末から内ゲバを繰り返すという凄惨な事態に突入していく様子を振り返った。そして、第3巻となる本書では、1972年のあさま山荘事件を契機に新左翼が失墜した後、現代に至るまでの左派の流れを見ている。

 新左翼運動が社会的な広がりを失う大きな転換点として、1972年11月8日、早稲田大学構内で文学部2年生の川口大三郎さんが革マル派の学生に拉致され、殺される事件、いわゆる「川口大三郎事件」を挙げている。別名、「早稲田大学構内リンチ殺人事件」。革マル派が、川口さんを中核派の学生と疑い、凄惨なリンチを加えたものだ。

 大学当局が革マル派排除に及び腰だった姿勢を目の当たりにして、一般学生は新左翼に対して心底嫌気がさしてしまった、と佐藤さんは見ている。あさま山荘事件、テルアビブ空港乱射事件などに比べて、あまり知られていないが、転換点の一つになったと指摘している。

 第1章では、このほか東アジア反日武装戦線と「三菱重工業爆破事件」、唯一盛り上がった三里塚闘争などに触れている。

労働運動が主軸に

 第2章以降は労働運動に焦点を当てているのが特徴だ。「学生たちを主要な担い手とする政治闘争から、労働運動へ焦点が移っていった時代」と位置づけている。

 日本の労働運動が頂点に達したのは、1975年の「スト権スト(ストライキ権奪還ストライキ)だった、と池上さんは指摘している。

 国労や動労が一斉にストに踏み切ったことで、国鉄では旅客、貨物ともにほぼすべての列車の運転が休止。8日間、私鉄を除く日本中の鉄道のほとんどが止まったのだ。だが、政府は労組に対するスト権付与を拒み、「スト権スト」は失敗に終わった。

 池上さんは、ここからストが市民の理解を失うとともに、トラックで輸送してもらおうという風潮が広まった、と見ている。

 佐藤さんは労働運動が70年代後半から少しずつ衰退していったのは、日本が本格的な大量消費社会に入り、組合運動が時代にそぐわなくなってきたからだ、と推察している。

 左翼の主戦場は労働運動になり、そこで社会党左派を支えた社会主義協会が台頭するが、そのマルクス・レーニン主義的な前衛主義に対する総評、社会党内の反発が強まり、70年代後半に社会主義協会の活動に規制が加えられた。

 社会主義協会は社会党内の「党」のような存在だった、と2人は理解している。だが、その世界観のズレはいかんともしがたかった。1979年12月にソ連がアフガニスタンに侵攻したとき、社会主義協会はソ連を全面支持した。共産党と社会党本体はソ連を批判したにもかかわらずだ。

国鉄民営化の隠された狙い

 第4章「『国鉄解体』とソ連崩壊」では、国鉄民営化の隠された狙いについて議論している。

 池上 「国鉄を民営化すれば、85年時点で18万人以上の組合員を抱える日本最大の労働組合であった国労の力を削ぐことができ、総評は弱体化し社会党も弱体化する。日本の左翼は総崩れになる」
 佐藤 「中曽根が目論んでいたのは、大きな意味では日本を社会主義革命から遠ざけるということですねよ。そして、今から振り返れば実際に国労を切り崩した結果、社会党と日本の左翼は崩壊過程を辿っていった」

 これは陰謀論ではなく、当時の中曽根首相がそれを狙っていたことは、後年本人が様々なインタビューで証言しているという。

 左派はなぜ力を失ってしまったのか、このシリーズを読めば理解できるだろう。池上さんは「『左派の思考』を検証するというのは、激動の時代をいかに乗り越えればよいかの知恵を歴史から謙虚に学ぶということ」と総括している。

 佐藤さんはウクライナ戦争によって、左翼思想を成り立たせている土台自体が崩壊していることが明らかになったが、貧困問題が深刻になり、その過程で平等を強調する左翼的価値観も見直されることになると予想している。

 左翼が困難な時代に、本シリーズ3巻が成立したのは読者の支持もあったからだろう。失敗の原因はどこにあったのか? ページをめくるたびにその答えが書いてある。

 BOOKウォッチでは、『真説 日本左翼史』、『激動 日本左翼史』のほか、「川口大三郎事件」を振り返った『彼は早稲田で死んだ』(文藝春秋)などを紹介済みだ。



 


  • 書名 漂流 日本左翼史
  • サブタイトル理想なき左派の混迷 1972-2022
  • 監修・編集・著者名池上彰、佐藤優 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2022年7月20日
  • 定価968円(税込)
  • 判型・ページ数新書判・187ページ
  • ISBN9784065290125

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