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関西人必読の傑作エンターテイメント小説。京都・大阪・兵庫が「首都」目指す!?

うえから京都

 コロナ禍で低迷した日本経済を救うため、経済の拠点や首都を東京から関西へ移したい。そんな「遷都」構想をめぐるエンターテインメント小説が本書『うえから京都』(角川春樹事務所)である。

 エンターテインメントと言ってもしつらえは、ポリティカルかつコミカルだ。京都府知事から構想実現の依頼を受けたのは、坂本龍子。高知県の県庁職員でありながら、政治の世界で数々の難問を解決し「交渉人」と呼ばれ、その名を馳せていた。現代版の女・坂本龍馬として人物造形されている。

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 京都・大阪・兵庫の三府県が手を組み、西の統一を図り、その上で東の東京や政府と交渉するという構想だが、その裏には京都が国の政治を司る拠点として返り咲き、そして遷都をまでをも実現するという思惑があった――。

コロナ禍の日本の立て直しをどうするか

 読者が荒唐無稽なホラ話には付いていけないと拒否反応を起こさないように、著者は策をめぐらしている。まず、コロナ禍の日本の立て直しをどうするか、という問題設定をしている。東京・首都圏一極集中でいいのか? ヒトも行政も経済も分散した方が危機管理上、望ましいのでは、とうっすら皆が考え始めている状況がある。

 同じような問題意識を持つ作家の高嶋哲夫さんは、昨年コロナ後に起こりうる巨大災害への備えを訴えた『「首都感染」後の日本』(宝島社新書)を出した。そこでは、今回のコロナ禍で明らかになった、貧弱な日本の危機管理能力、「東京目線」のコロナ対策とその限界を指摘。首都移転と道州制をセットで行い、「新しい日本の形」を造るしかない、と主張している。

 仮に欧米のようなロックダウンが首都圏に発令されれば、首都圏だけではなく日本全体が麻痺し、大きな経済的損失が発生するだろう。東京直下型地震、南海トラフ地震が首都圏を直撃すれば、実質的にそうした事態も起こり得るのだ。

京都・大阪・兵庫が一つにまとまるには

 著者は次に、京都・大阪・兵庫を一つにまとめるというロールプレイング・ゲームのような展開で読者の関心を惹きつける。京都人が強いプライドを持っていることは全国的によく知られているが、京都と大阪が不仲であることや兵庫の立ち位置は、関東ではあまり知られていない。

 龍子はまずは兵庫を参加させるため、兵庫県知事と面会する。外堀から攻めようという作戦だ。京都の長老からは「大阪は大阪、京都は京都。同じ関西でくくられるのがどうも気分が悪いですわ」とか「大阪は京都と違て、何でもグイグイきはるから。気品が違いますやろ京都とは。街の作りからして、品があるのが京都。大阪行ったら、どっちが北やらさっぱりですわ」という声が聞こえてくる始末。まずは兵庫を味方につけるという作戦だ。

 「首都分散」というコンセプトを勝手に示す龍子。兵庫は大局的見地から会合への参加を決める。兵庫には冷静な仲介役を依頼する。次は大阪を口説く番だ。龍子は大阪府知事と側近に接触する。提案に大阪側は不審の念を口にする。

 「何か、裏があるんとちゃいますか? 敵対心むき出しの京都でっせ」
 「大阪を利用することはあっても、平等に手を組むとかは、あり得へん話でしょう」
 「まさか、首都分散とか言いながら、京都に都を戻すとか思てるんとちゃいますか? 見え見えでっせ」

 龍子は「関西を強化して、中央の東京と話ができる力を持ちましょう。西側を統一するのが、京阪神。東を統一するのが東京。国をこの二大巨頭が支えるというのが私のご提案です」と大阪を説得する。

 京都・大阪・兵庫が同じテーブルにつくことになった。龍子が京都陣営にある秘策を授ける。タイトルの「うえから京都」ならぬ「したから京都」作戦。果たして、京阪神は一つにまとまるのか......。途中から話を聞きつけた奈良や滋賀も参戦して、ドタバタ劇の様相を呈してくる。関西圏の地域性や、そこに住まう人々の独特な個性とともに、ブラックユーモアを交えながらストーリーは展開する。果たして「首都分散」は実現するのか?

 ところで京都には「遷都の勅令はまだ出ていないから、都は今でも京都だ」と言うようなウルトラ京都主義者がまだいるという話を『イケズな東京』(中公新書ラクレ)で著者の一人、井上章一さん(国際日本文化研究センター所長)が披露している。文化庁は2022年度中に京都における業務開始をめざして準備している。だから、この小説もまんざら絵空事ではない。

 著者の篠友子さんは27歳で起業し、アウトソース事業、媒体事業を経て、2012年に株式会社MUSAを設立。邦画やドラマの宣伝、イベントPRを主軸とする事業を展開し、邦画宣伝では、これまで100本以上の作品に関わる。還暦を超えて本作が小説デビュー作となる。これまでの仕事で鍛えたプレゼン力が発揮されている。

 BOOKウォッチでは関連で、増田晶文さんの『S.O.P.大阪遷都プロジェクト』(ヨシモトブックス 発行、ワニブックス 発売)などを紹介済みだ。大阪都構想は挫折したが、大阪を舞台にした遷都小説である。実際、明治元年(1868) 1月23日に大久保利通は「大坂は外交、経済、軍事において首都に最適である」と大坂遷都を主張したが、京都の公家の反対でつぶされた。その後、前島密らの奔走で遷都案は大坂から江戸へ変更されたという歴史的経緯があるから、これもまた非現実的な話ではないのである。



 


  • 書名 うえから京都
  • 監修・編集・著者名篠友子 著
  • 出版社名角川春樹事務所
  • 出版年月日2022年7月15日
  • 定価1870円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・340ページ
  • ISBN9784758414197

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