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人生がうまくいかないのは誰のせい? 「親ガチャ」の背景

親ガチャという病

 

   最近、「親ガチャ」という言葉をよく耳にする。そもそも「ガチャ」とは、オンラインゲームで希望のアイテムを手に入れるための電子くじシステムのこと。くじを引いてどんなアイテムが出てくるかは、完全に運次第である。このシステムに自分の出生をなぞらえた言葉が、「親ガチャ」だ。

若い世代に拡散し2021年の新語大賞に

   本書、『親ガチャという病』(宝島社・2022年3月10日発売)は、「親ガチャ」「無敵の人」のように、話題を集めたネット発の様々な流行語をヒントに、息苦しい現代日本の正体に迫る1冊。

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「ときには一発で大当たりすることもありますが、いくら課金してもつまらない玩具や弱いアイテムしか入手できないこともあります。それと同じように、私たちは誰しもどんな親の元に生まれてくるかを選べません」
「自分の人生が希望通りにいかないとしたら、それは出生のくじ運が悪くて外れを引いてしまったからだ、親ガチャにはそんな思いが込められています」
 

 「親ガチャ」という言葉は、2021年に"バズワード"として若い世代を中心に拡散し、「2021年のユーキャン新語・流行語」のトップテン、さらに同年の「大辞泉が選ぶ新語大賞」では大賞に選ばれた。

   本書は、その「親ガチャ」という言葉を皮切りに、7人の識者にインタビューしている。また、第1章については、2021年9月に「現代ビジネス」で配信され大きな反響を呼んだWeb記事「『親ガチャ』という言葉が、現代の若者に刺さりまくった『本質的な理由』」を執筆した、社会学者の土井隆義さんが論考を寄稿した。

   7つの章立ての内容は、以下のとおりだ。

第1章 親ガチャという病
生きづらさのなかで固定化されゆく"自己像"  土井隆義(社会学者)

第2章 無敵の人という病
「真犯人」は拡大自殺報道を垂れ流すマスコミ  和田秀樹(精神科医、評論家)

第3章 キャンセルカルチャーという病
被害者への過度な感情移入が議論をシャットアウトする  森 達也(映画監督、作家)

第4章 ツイフェミという病
フェミニズムを攻撃や誹謗中傷の「隠れ蓑」にしてほしくない  室井佑月(作家)

第5章 正義バカという病
スケープゴート叩きの裏に潜む「不都合な真実」  池田清彦(生物学者)

第6章 ルッキズムという病
「相手ファースト」で萎縮し"素顔"を覆い隠す若者たち  香山リカ(精神科医)

第7章 反出生主義という病
「人生の虚しさ」の大衆化により蔓延している苦しさ  中島義道(哲学者)
 

   今回は、表題にもなっている第1章「親ガチャという病 生きづらさのなかで固定化されてゆく"自己像"」を紹介したい。

頭や顔が悪いのは「親のせい」?

   筆者の土井さんは、親ガチャという言葉には、成育家庭の経済状況だけでなく、頭や容姿のよしあし、対人能力の有無なども含まれていると指摘する。これらは親からの遺伝や、幼少期からの環境で決まる資質や才能であると若者たちは捉え、自分の人生を規定する大きな要因と考えるようになっているという。

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「親ガチャ」で人生が決まる?

   このような、宿命論的な人生観を若者がもつようになった背景には、何があるのだろうか。

   土井さんは、「自らのアイデンティティの揺らぎを抑え込みたいという潜在的な願望の表れ」だと論じている。これまでの社会では、学歴や会社名、資格など、本人の努力で獲得した能力が重視されてきた。そのため、人は「○○大学の出身である」「○○会社の社員である」などさまざまな社会的属性によって、自分のアイデンティティを確定しようとしてきた。

   しかし、そのような能力重視になり、出自で判断されることがなくなった社会は「いったい自分は何者なのかという不安をかき立てる」というのだ。

「このとき、変化しようのない生得的な資質や能力に重きを置き、そこに自分のアイデンティティの拠り所を見出そうとするようになったとしても、けっして不思議なことではないでしょう」

   このように、「親ガチャ」という言葉、運命論のような人生観が広がっている背景には、現代人が抱える不安感の増大がある、というのが土井さんの考えだ。

   ほかにも、「無敵の人(「死刑になりたい」無差別襲撃犯たち)」「ツイフェミ("標的"に向けられる苛烈な攻撃性)」など、話題を集めているネットスラングの背景と、その本質を7名の専門家が掘り下げる。現在の日本の社会に違和感があるという人にこそ、手に取ってほしい1冊だ。

   (文・犬飼あゆみ/ライター)


※画像提供:宝島社


  • 書名 親ガチャという病
  • 監修・編集・著者名池田清彦 中島義道 和田秀樹 室井佑月 森 達也 香山リカ 土井隆義 著
  • 出版社名宝島社
  • 出版年月日2022年3月10日
  • 定価990円(税込)
  • 判型・ページ数新書判・224P
  • ISBN978-4-299-02760-3

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