第20回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。まったく新しい"特許ミステリー"が誕生した。
南原詠さんのデビュー作『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』(宝島社)で描かれている、「弁理士」という職業。聞きなじみがない方も多いのではないだろうか。弁理士とは、特許権や商標権などの「知的財産権」に関する専門家だ。企業や個人発明家にかわって、知的財産権の申請や保護をする。
この弁理士という職業、国家資格の合格率はなんと10%以下。文系の司法試験に並ぶ、理系の最難関資格と言われている。著者の南原さん自身も、実は現役の弁理士だ。超エリートの専門知識がフルに活かされた特許論争ミステリー。読者の知的好奇心を刺激すること間違いなしだ。
主人公の凄腕弁理士・大鳳未来(おおとりみらい)は、相方の弁護士・姚愁林(ようしゅうりん)とともに特許法律事務所を経営している。未来のもとに新たに舞い込んできた依頼の主は、大人気VTuber(アニメーションのアバターを使ってYouTubeで活動する配信者)だった。撮影システムが特許を侵害していると警告を受け、守ってほしいというもの。どうやら警告主は金目当てではなく、VTuberの活動そのものを止めさせたいらしい。しかし、相手はVTuberの競合事務所ではない。いったい何が目的なのか......?
特許ミステリーというだけでも目新しいのに、さらにVTuberという、まさに今の時代にぴったりな題材をテーマにした本作。ミステリーに新たな風穴をあける一作に違いない。
しかも、特許権もVTuberも、なじみのない人には専門的で踏み込みづらいテーマのはずだが、必要な知識は未来やVTuber事務所職員がセリフのなかで詳しくわかりやすく解説してくれる。どちらにもまったく前提知識がなくても、その場で知って十分楽しめるのだ。専門的なのに誰も置いてけぼりにしない話の運び方は、見事な手腕だ。
テーマの新しさだけでなく、キャラクター設定にも魅力がある。南原さんが「強気で魅力的で活動的」に描いたという主人公の未来。実は、今の事務所を設立する前の仕事先で、「とあるメーカーのスマートフォンに特許をぶつけ、半年で百億円を稼いだ」ことがあったそう。自分では事業をする気のない製品の特許を取得し、その製品を実現した他の企業にぶつけて巨額の賠償金を得ようとする、「パテント・トロール」と呼ばれる手口だ。
『私たちは、元・特許ヤクザです。だからヤクザのやり口がわかります』
本文中ではこんなふうに茶化されている。言ってしまえば、大鳳未来はダークヒーローなのだ。特許知識で巨額の賠償金を稼いでいた、気が強くておそろしく賢い女性が、その知識をフル活用して依頼人を守る。この筋書きだけでドキドキしてくるのではないだろうか。
絶対に不利と思える状況にも、果敢に立ち向かっていく大鳳未来。彼女の痛快な活躍から目が離せない。著者の南原さんは、「特許というルールに基づき登場人物たちが攻撃と防御を繰り広げる、いわば知的スポーツゲーム感覚で楽しんでもらえたら幸いです」とコメントしている。
■南原詠(なんばら・えい)さんプロフィール
1980年12月生まれ。東京都目黒区出身。東京工業大学大学院修士課程修了。元エンジニア。現在は企業内弁理士として勤務。
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