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ぜひ映像化を。息を呑むミステリー、主人公は「貨物列車」!

シークレット・エクスプレス

 映画「新幹線大爆破」のように、旅客列車を舞台にしたミステリーや映画・ドラマは古今東西数えきれないほどある。しかし、貨物列車となったらどうだろうか? 地味だし、そもそも人が乗っていないから、ドラマが成り立つのか? 鉄道ファンの評者でもすぐには思い浮かばなかったが、実は貨物列車が舞台の名作映画は海外ではかなりある。本書『シークレット・エクスプレス』(毎日新聞出版)は、日本列島を縦断する秘密の輸送計画がテーマのミステリーだ。

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 著者はミステリー作家の真保裕一さん。1991年に『連鎖』で第37回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。96年『ホワイトアウト』で第17回吉川英治文学新人賞、97年に『奪取』で第10回山本周五郎賞、第50回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。緻密なプロットと意表を突く展開に定評がある。

 日本では鉄道輸送の比重は年々低下し、重量のみのトンベースでは約1%に過ぎない。しかし輸送キロと掛け合わせたトンキロベースでは約5%となり、長距離輸送に強いことがわかる。近年ではSDGsへの取り組みとして、トラック輸送から、二酸化炭素の排出量が少ない鉄道貨物へのシフトが少しずつ進んでいる。

 JR貨物の元運転士で、ロジスティックス本部戦略推進室補佐の井澄充宏を主人公とする本作の背景には、こうした鉄道貨物の復権が底流にある。井澄のもとに航空自衛隊から燃料の緊急輸送の依頼が入る。ルートは青森県の東青森駅から佐賀県の鍋島駅まで。陸上自衛隊の大型機材を運んだことはあったが、燃料輸送は初めてだった。

 政府の肝いりで極秘の仕事だった。燃料を入れたタンクコンテナ18両と間の空貨車をはさみ、貨車だけで27両編成となる。列車番号は、臨時の特別便ということもあり、「9999」。いつしか部内では、「フォーナイン」という通称で呼ばれるようになっていた。

 青森からは日本海縦貫線(奥羽線・羽越線などで構成)、東海道線、山陽線などを経由して31時間の長旅になる。牽引するのは交直流のEH500機関車。ECO-POWER(エコパワー)金太郎の愛称を持つ強力な機関車だ。運転士は200キロか、4時間を超えずに交代する決まりなので、計12人。準備期間は3日。社長案件ということで、各地に無理を言って運転士を急きょ手配してもらった。

積み荷は液体の燃料ではなかった

 東青森駅を出て、最初の停車駅である秋田貨物駅で運転士が奇妙な情報を列車無線で伝えてきた。液体の揺れ戻しの感触が感じられず、積み荷が液体の燃料ではないというのだ。警備も厳重で、何かおかしい。積み荷は一体何だろうか?

 こうした列車の進行と並行して、東日本新聞青森支局の記者たちが動き出す。国家石油備蓄センターの前で県警が交通規制をしているという情報をもとに取材に取り掛かる。すると、県警から彼らにプレッシャーがかかる。東青森を出た貨物列車は何を積み、どこを通り、どこを目指しているのか?

 「フォーナイン」は新潟県の南長岡駅で停車、信越線に入ろうとした頃、信越線の架線に障害物が引っ掛かり、列車がストップする。何者かが列車の進行を妨げようとしているようだ。こうして物語は、「フォーナイン」と新聞記者、列車を妨害しようとする謎の運動体がからみ合う。その底辺には、謎の荷を積み込んだ国家の強い意志があった。

 「フォーナイン」は、信越線をあきらめ、上越線経由で西を目指そうとする。果たして列車は目的地に着くのか? 積み荷は何だったのか? 衝撃の展開に息を呑む。

貨物列車はどこでも線路を走れない

 貨物列車が走る路線は通常限定されている。道路のようにいつでもどこでも走れるわけではない。東日本大震災で東北の線路や道路が各地で寸断されたとき、JR貨物は政府の要請を受け、上越線から日本海側を経由するルートで青森から盛岡へと南下し、被災地に毎日2便、石油のピストン輸送を続けた。

 また、最近では2018年の西日本豪雨で山陽線が寸断された際、山陰線を迂回するルートで貨物が運ばれたが、このときはかなり実現まで時間がかかった。通常は旅客列車しか走っていない区間で貨物列車を走らせられるかどうか、線路などの状態を確認し、国の許可を受ける必要があるからだ。

 実は、貨物列車が走っていない鉄道路線はかなり多い。というより、貨物列車が走っている路線の方が珍しいのだ。こうした制約があるからこそ、本作は成立しているとも言えよう。制約こそ、ミステリーの母である。

 真保さんが鉄道ファンかどうかは分からないが、JR貨物への深い愛があることは確かである。政府と警察から列車を止めるなとの厳命が下される。そのとき、鉄道マンはどう動くのか。ぜひとも映像化してもらいたい作品だ。

 BOOKウォッチでは、『京成はなぜ「国内最速」になれたのか』(交通新聞社新書)、『こんなものまで運んだ!日本の鉄道』(同)などを紹介済みだ。



 


  • 書名 シークレット・エクスプレス
  • 監修・編集・著者名真保裕一 著
  • 出版社名毎日新聞出版
  • 出版年月日2021年8月10日
  • 定価1870円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・351ページ
  • ISBN9784620108551

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