家で仕事をしていたら、突然、胸がギューッと締め付けられるように痛くなった。思わず胸を押さえてうずくまっていると、喉が詰まるような不快感が。なにこれ、まさか心臓病? 確かにコレステロール値は高めだし、在宅ワークでほとんど運動していないし、お酒の量も増えたし......と、思い当たるフシは多すぎる。
慌てて循環器内科を受診し、一通り検査をしてもらったら、「心臓に悪いところはありませんね。たぶん、原因は胃だと思います」と言われてびっくり。いや、痛いのは胸であっておなかではないんですけど......?
医師によると、心臓のあたりに激痛が走るので勘違いされがちだが、実は「逆流性食道炎」だった、というケースは多く、記者のように「死ぬかも?!」と思って受診する人が少なくないという。結局、「もっと詳しく血液検査してもいいけど、ひとまず様子を見ましょう」と言われ、胃酸を抑える薬を処方されて帰宅した。でも、あんなに胸が痛かったのに......とまだ腑に落ちない気持ちでいたのだが、この本を読んで納得した。
兵庫医科大学の副学長で、同病院の副院長を務める消化器内科の権威、三輪洋人さんの著書『胃は、歳をとらない』(集英社新書)には、最近急増している病気の一つとして、「逆流性食道炎」のことが詳しく書かれている。
胃が歳をとって衰えたから、調子悪くなるんじゃないの?と意外だったが、三輪さんによると、胃自体は「ほとんど加齢の影響を受けない臓器」なのだという。実際、胃の不調で受診して検査をしたが、胃自体には何も異常がなかったというケースも多い。胃の衰えは、胃以外の原因で進むのだ。
それはさておき、「逆流性食道炎」だ。悩む人が多いらしく、本書では1章分を割いて、素人にもわかりやすく解説されている。
逆流性食道炎とは、「胃酸や食べたものが胃から食道へと逆流して、食道の粘膜に炎症が起こる病気」とある。典型的な症状が、胸やけと呑酸(酸っぱいものがこみ上げてくる)だ。
とくに胸やけは、前胸部に起こります。先ほど「心臓も痛いと言う人がいる」と述べましたが、胸やけという症状は心臓の痛みに似ていて、「死を予感させる症状」と表現する人もいます。(中略)この痛みはとても苦しいものです。
心臓発作かと思い、夜中に救急車で搬送された人も。知らない人は大げさだと思うかもしれないが、経験者の一人として、狭心症を疑いたくなる気持ちはよくわかる。
ほかにも様々な症状があり、頻度や程度にも個人差があるという。次のうち、3つ以上当てはまれば、逆流性食道炎の可能性がある。まずはかかりつけ医を受診しよう。
<その症状、逆流性食道炎かも?! セルフチェック>
・胸やけがする(チリチリとする、熱くなる、燃えるような感覚など)
・胸がつかえる
・胃がムカムカとして重い
・のどがヒリヒリする
・ゲップをくり返す
・酸っぱいものが込み上げてくる(呑酸)
・苦い水が上がってくる
・心臓が痛い
・吐き気がある
・おなかがはる
・食べ物を飲むとつかえる
・声がかすれる
・咳が出る
・耳のあたりが痛む など
胃酸が逆流するメカニズムは本書に譲るが、原因のひとつは、食べ方にある。食べすぎや早食いは控えること。また、揚げ物やスナック菓子、ファストフード、ケーキなど、脂質を多く含む食品を毎日たくさん摂るのもよくない。さらに、肥満、メタボリックシンドローム、太り気味の人も要注意だ。
これらの原因はなんとなく予想していたものの、やせ型で食べるのが遅く、加齢に伴い脂っこいものを受けつけなくなった記者は、どれにも当てはまらない。三輪さんはほかに、「知覚過敏」を挙げている。知覚過敏というと歯を思い浮かべるが、ストレスなどの原因で胃の知覚が過敏になり、胃酸の刺激や胃の収縮を痛みと感じることがあるそうだ。
また、最近急増しているのは、胃酸が逆流していない、あるいは微量の逆流で食道が炎症を起こしていないにも関わらず、同じ症状が現れる「非びらん性胃食道逆流症」だという。なりやすいのは、「比較的若い人」「女性」「やせ気味の人」「ストレスが強い人」、また、「お酒をあまり飲まない人」「タバコを吸わない人」という傾向が。記者はこのタイプかもしれない。
つらい症状があるときは、まずは受診をおすすめするが、本書ではセルフケアの方法も掲載されている。予防のためにも参考になるだろう。
まずは食事だ。脂っこいものに加え、コーヒーやチョコレート、緑茶や紅茶などのカフェインが多く含まれるもの、ビールやスパークリングワイン、サイダーなど炭酸が含まれる飲料はNG。梅酒や赤ワイン、酢の物やかんきつ類などは健康に良さそうだが、逆流性食道炎の人は控えよう。
次に、姿勢。猫背や前かがみの姿勢で胃が圧迫されると、胃液が逆流しやすくなる。スマホやPCの操作、食事中など、猫背にならないよう姿勢を意識しよう。寝るときは、頭を高くするのが〇。おなかのあたりから、頭にむかって徐々に傾斜をつけるのがよい。横向きに寝る人は、左側を下にするとよいそうだ。胃のおよそ4分の3は体の中心より左側に寄っているため、胃の内容物は左側のほうが溜まるスペースが広く、左を下にすると逆流を軽減できるから、というのがその理由だ。
本書にはほかにも、市販薬の選び方から筋トレ、「エビデンスが豊富な胃ケアツボ」、日常生活の動作に至るまで、セルフケア法がたくさん紹介されている。食べ過ぎ、飲みすぎで胃を休める間もなかった年末年始の休暇が終わったと思ったら、ストレスフルな日常が始まった。おなかは休めつつ、背筋をピンと伸ばして、今年こそ健康的に過ごしたい。
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