親しみやすい人柄とわかりやすい語り口が人気で、NHKの「あさイチ」などメディアにひっぱりだこの産婦人科医、高尾美穂先生。10月13日に『いちばん親切な更年期の教科書【閉経完全マニュアル】』を上梓しました。
ご自身も「更年期まっただ中」と語る高尾先生に、更年期とアフター更年期を健やかに生きる秘訣を聞きました。本に込めた思いと、女性たちに伝えたいメッセージを2回に分けてお伝えします。
――女性たちへの応援歌のようなご著書で、とても心強く思いました。高尾先生がこの本を出版されようと思ったのは、なぜですか?
高尾 更年期の情報を、女性のみなさんに正しく伝えたかったのです。振り返ってみると、私たち女性は、生理や更年期について学校教育で学ぶ機会がありませんでした。
10歳で初潮があり、50歳で閉経した場合、生理がある40年間は、ずっと女性ホルモンに揺さぶられます。妊娠・出産で激しく揺さぶられて、更年期は"大嵐"です。でも、アフター更年期には、女性ホルモンがもたらす不調から解放されます。女性ならではの不調がなくなり、いつでも同じパフォーマンスを出せるようになるはずです。
嵐の後には凪が来るように、更年期の後には、自分のやりたいと思っていたことが、いつでもできる、備えさえすれば、体力も時間もあるという、すごく安定した時期がやってきます。そのご褒美ともいえる時期を健やかに迎えるために、更年期を乗り越える方法はあるのだから、それを知って前向きに取り入れてほしいという気持ちで執筆しました。
更年期に心がポキっと折れてしまったり、体にすごく不調が起きたりすると、そのあとの数十年がとてももったいないと思いませんか。そうならないために知っておいてほしい知識や対処法を体系的に教科書の形にまとめました。
――閉経前後のロードマップをはじめ、丁寧な図解がたくさん入っていて、とてもわかりやすい内容でした。更年期、更年期症状、更年期障害、閉経の4つの言葉の意味と違いも、よく理解できました。
高尾 日々診察にあたっている私は、女性はあまりにも頑張り屋さんが多いと思っています。自分を犠牲にして仕事に家事に子育てに頑張りすぎる半面、自分の体にはいつどんなことが起こりやすいのかについて俯瞰で見ることがないんですね。更年期は、女性の人生の転換期なので、いつからどんな変化が起きるのか、そのあとの体はどうなっていくのかについて知っておくのはすごく大事なことです。
閉経しないと更年期がいつ始まったのかはわかりません。個人差はありますが、日本人の閉経年齢の中央値は50.54歳、約50歳です。その場合、50歳をはさんだ前後10年間、45歳から55歳までが更年期に相当します。ホットフラッシュと呼ばれる異常発汗やほてり、イライラ、不安感、不眠、手足の冷えなどの更年期症状を感じるのは、6割くらいの方です。
残り4割の方は、月経周期がばらつく、経血量が多すぎる少なすぎるという程度の生理にまつわる変化しか感じずに更年期を過ごします。
更年期症状を感じる人の3割弱が、治療を受けないと日常生活がつらいほど重い症状が現れ、それが「更年期障害」と呼ばれるものです。
更年期症状が強く表れやすいのが、閉経前後の2年間くらい。女性ホルモンの少ない状態に慣れてねという時期が更年期といえるわけです。体が慣れてくれれば、もう大丈夫って時期がきます。
――更年期症状が出やすい6割の人と、出にくい4割の人の違いって、なんでしょう?
高尾 ひとつはキャラクターです。「とても真面目」「誰かのために何かの役に立ちたいと強く願っている自己犠牲型」の方は、症状が出やすく、「更年期障害」になる可能性が高いともいわれています。
もうひとつは、人生の「曲がり角」に相当する経験をされた方です。
更年期は人生の転換期に重なりやすい。例えば、お子さんのご飯を作るのが楽しかったのに、独立とか結婚などでその楽しみがなくなり喪失感に襲われてしまう。また介護をしていた親に突然亡くなられて心にぽっかり穴が開いたような状態になる。あるいはパートナーに女性として見てもらえないという経験がある。こういった何かしらトラウマティックな経験が、心が折れてしまうきっかけになる可能性があります。
ただ、「私はこれに当てはまる」という項目があっても、更年期症状が強く出ないケースもあります。更年期症状が出る、出ないには、「体内でエクオールを作れるかどうか」も関係していると考えられています。エクオールというのは、大豆イソフラボンを含む大豆製品を食べると体内で女性ホルモンのような働きをしてくれるありがたい成分です。
――エクオールを作れる人は、更年期症状が出にくいのですか?
高尾 エクオールを作れる人は、女性ホルモンに守られて症状が出にくい、あるいは症状が出ても軽いといわれています。ですが、エクオールを作れる人は女性の半分ほどしかいません。
高尾 更年期は、女性ホルモンの量がアップダウンしながら、やがて落ちていく時期です。その過程で、女性ホルモンの恩恵を徐々に受けられなくなり、さまざまな更年期症状が現れてきます。その女性ホルモンと化学構造がすごく似ていて作用も同じなのが大豆から産生されるエクオールです。
――エクオールを作れない人は、どうすればよいのでしょうか?
高尾 エクオールそのものをサプリメントで摂る、という方法もあります。更年期まっただ中の私自身も2回検査してエクオールを作れない体質だとわかったので、サプリメントを飲んでいます。手軽な尿検査キットが市販されているので、自分の体の状態を知るためにも検査してみることをおすすめします。ただし、エクオールを作れる人も、直近で大豆製品を摂っていないと低いレベルとして測定されることがあります。
エビデンスのないサプリメントは、やがて消えていきますが、信頼できる種類のエクオールサプリメントにはエビデンスがあります。
――私たちの体は女性ホルモンの恩恵を受けてきたんですね。
高尾 卵巣が女性ホルモンを生成できなくなって、卵巣機能が終了していく時期が更年期の前半です。私たちはこれまで、女性ホルモンに揺さぶられる半面、女性ホルモンの恩恵を受けてきました。
コレステロール値を低く抑えてくれるほか、肥満を予防するなど、生活習慣病から女性の体を守ってくれていたのです。そのうえ、血管や関節をしなやかで弾力性のある状態に保ち、動脈硬化や関節痛などを防いでくれるほか、肌や髪の美と若さを保つ、骨を強く保つという働きもあります。
メンタルの安定にも関わっていて、自律神経の働きが安定し、リラックスさせる副交感神経が優位になりやすい状態を作ってくれていたのです。女性ホルモンと関連する脳内物質のセロトニンは、ストレスに対して気持ちを落ち着かせ、体のリズムを整え不眠解消に役立ちます。そのため、女性ホルモンが豊富な間は、気持ちが安定しやすいのです。
――更年期のサインは、40代になったら現れると考えておいたほうがいいのでしょうか。
高尾 45歳くらいから更年期を迎える人が多いので、40歳を過ぎたら、女性は更年期を意識し、もっと体のことに関心を持ったほうがハッピーになれます。人生100年時代といわれる現代、女性の平均寿命は87歳を超えました。折り返し地点にあたる頃、更年期の入り口に立つことになります。
更年期を「人生の棚卸しの時期」と考えて、家族や仕事ももちろん大切ですが、自分の心と体に向き合って、いたわってあげてください。人生の後半を楽しく豊かに過ごすための準備をしておくと、アフター更年期を健やかに生きられますよ。
BOOKウォッチでは、高尾先生の著書、『いちばん親切な更年期の教科書【閉経完全マニュアル】』(世界文化社)の内容についても、紹介しています。
次回は、更年期症状や更年期障害のある人の対処法やメンタルケア、アフター更年期を豊かな時間にするために何をしていったらいいのか、具体的なお話をお届けします。
■高尾美穂さんプロフィール
産婦人科専門医。女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道副院長。医学博士。スポーツドクター。ヨガドクター。東京慈恵会医科大学大学院修了。同大学附属病院産婦人科助教をへて2013年より現職。「すべての女性によりよい未来を」をモットーに、医療・ヨガ・スポーツの3つの活動を通じ、専門的な知識をわかりやすく伝える啓発活動に精力的に取り組む。高いプロ意識とソフトで親しみやすいキャラクターが大人気。イベントやセミナー、メディア出演多数。著書に『超かんたんヨガで若返りが止まらない!』(世界文化社)がある。YouTube「高尾美穂からのリアルボイス」を毎日更新し、女性の健康のみならず、よりよく生きるためのヒントを届けている。
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