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その不調、「更年期のせい」じゃないかも?

更年期障害だと思ってたら重病だった話

   多少の体調不調はすべて、更年期障害というひと言で片付けられるものだった――。

   『兄の終い』、『全員悪人』の著者である翻訳家・村井理子さんが、当時47歳で経験した闘病生活を綴った『更年期障害だと思っていたら重病だった話』(中央公論新社)は、雑誌『婦人公論』(中央公論新社)のウェブサイト「婦人公論.jp」で連載されていたエッセイをまとめたものである。病気の発覚から手術を終えて退院するまでの90日間に及ぶ闘病生活の様子が描かれている。アラフォー、アラフィフになると更年期が気になるお年頃。「身体の不調は全て更年期」で済ませているととんでもないことになるかもしれない。

何もかも更年期障害だと片付けるなんて、自分に対するとんでもないネグレクトだ。でも、世の中の大半の人が40代後半の女性の体調不良に抱くイメージは、更年期障害一択ではないだろうか。なんてひどい。いい加減にしてくれと怒りたくなる......自分に対して。だって、そんな決めつけを甘んじて受け入れていたのは、誰よりも、自分自身だったからだ。
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「もう、一歩たりとも動けない」

   著者は、翻訳業を営みながら琵琶湖のほとりで54歳の夫、14歳の双子の息子、愛犬のハリーと暮らす、本人曰く「どこにでもいる女性」。そんな村井さんに異変が起きたのは、愛犬の散歩中だった。

   その日は朝から腹部に違和感があったという村井さん。呼吸も浅く、歩くのがつらくなり、田んぼのあぜ道で足が止まってしまった。「もう、一歩たりとも動けない...」。這うようにして家に帰った村井さんは体中がむくんでいることに気づく。すぐさま病院に向かい診察を受けた結果、医者から「これは間違いなく心臓ですね」と診断された。翌朝、大きな病院に行くと「弁膜症の疑いあり」と言われすぐに入院となった。

入院生活で幼少期のトラウマと向き合う

   入院生活の始まりは、プライバシー侵害をしてくるベテランの入院患者、快適とは言い難いベッドなど波乱に満ちたものだった。そんな村井さんの入院生活の中でも印象的なのが、7歳の頃の自分と否が応でも向き合わなければいけなくなったことだ。

   村井さんは、「部分肺静脈還流異常」という先天性の心臓病を持って生まれ、7歳の頃に開胸手を受けた。その当時、同じく心臓の病気で入院していたふみちゃんという女の子がいた。その女の子は暗くて泣き虫で注射をしようものなら、暴れに暴れて周りを困らせた。一方で村井さんはそんなふみちゃんとは対照的な我慢強い子で、周囲からもよく褒められていたという。

   そんな村井さんとふみちゃんの関係性は、ふみちゃんの快復で逆転。手術を受け目覚ましいスピードで快復していったふみちゃんは退院していった。一方で村井さんは集中治療室から子ども病棟に移り、ようやく歩けるようになった頃だった。

私は、ふみちゃんに負けたのだと思った。そしてその日を境に、何をされても大声で泣きわめくようになり、医師も看護師も両親も、あの強かった理子ちゃんに何が起きたのだと、大いに驚いた。

   その後、開胸手術を受け無事退院したが、成長期だったため開胸手術の痛みを長い間経験することになった。それは身体の痛みだけでなく心の痛みをもたらした。胸をかばうように猫背になっている村井さんの背中を叩く先生は、辛くても体育の授業を休ませてくれないこともあったそうだ。ドッヂボールでボールが胸に当たり呼吸ができなくなったときは「大袈裟だ」と怒られもした。

私自身も、自分は大袈裟でずるい子なのだと信じ込んだ。そして、体育の授業を休まなくなった。なにもかもすべて周りの生徒に合わせることで、自分1人が目立たないようにした。目立たなければ、先生に叱られることもないからだ。

   他にも村井さんの痛みを他人から「ないもの」と扱われるエピソードが描かれる。倒れるまで自分の身体を後回しにして、仕事に子育てに邁進してきた村井さん。彼女の「我慢強さ」は過去のこうした体験から培われたものだったのだ。

主治医の言葉で積年の恨みがあっさりと消えた

   そんな村井さんを解放したのは、主治医のある言葉だった。幼少期の身体的な痛みを大人たちに無視された恨みつらみを話すと、主治医はあっさりとこう言った。

「うーん、大変でしたねえ。でも今回は大丈夫っす、痛かったら遠慮なしに言ってくださいよ! バッチリっす! 痛みを我慢する必要ないですし、今はいい薬がたくさんありますから。それじゃ!」

   その「バッチリっす!」というあっさりとした一言で、一瞬にして消え失せたそうだ。

   本書は、「病」というシリアスなテーマだが、村井さんの軽快でユーモラスな語り口でスラスラと読める。40~50代は仕事や子育て、親の介護などで自分のことが後回しになりがちだ。「美徳」と思われがちな我慢強さも時には弊害になる。なんでも「更年期」で片付けず、自分の体や心としっかり向き合う時間を持ちたい。

■村井理子さんプロフィール

   翻訳者、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。著書に『兄の終い』『全員悪人』(CCCメディアハウス)、『村井さんちの生活』(新潮社)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』(亜紀書房)、『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、ほか。訳書に『エデュケーション』(タラ・ウェストーバー著、早川書房)、『サカナ・レッスン』(キャスリーン・フリン著、CCCメディアハウス)、『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(キャスリーン・フリン著、きこ書房)、『ゼロからトースターを作ってみた結果』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』(共にトーマス・トウェイツ著、新潮社)、『黄金州の殺人鬼』(ミシェル・マクナマラ著、亜紀書房)ほか多数。


※画像提供:中央公論新社


  • 書名 更年期障害だと思ってたら重病だった話
  • 監修・編集・著者名村井 理子 著
  • 出版社名中央公論新社
  • 出版年月日2021年9月 9日
  • 定価1,540円(税込)
  • 判型・ページ数四六判 176ページ
  • ISBN978-4-12-005461-7

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