全国紙などを中心とする大手マスコミでは、様々な世論調査が行われている。同じテーマでも、社によって調査結果に大きな違いが出ることもある。本書『世論調査の真実 』(日本経済新聞出版)は、世論調査の歴史を振り返りながら、読者の素朴な疑問に専門家の立場から丁寧に答えている。
帯には大きく「内閣支持率が、各社で違う理由」と大きく記されている。一般に内閣支持率は、読売新聞や日経新聞では高めに出て、朝日新聞では低くなる傾向があるという。その理由について、世間ではしばしば以下のように説明される。
調査は電話で行われる。最初に社名を伝えて、協力を依頼する。回答者は社名を聞いて、その社が嫌いな人は答えない。朝日が嫌いな人は朝日の調査に協力しない。朝日新聞の調査で政権の支持率が低く出るのは、朝日が嫌いな人=政権を支持する人が調査に協力しないからだ......。
本書は、果たしてそうだろうか、と疑問を呈す。とっさにそこまで考えて対応する回答者がどれくらいいるだろうかと。しかも、この言説は実証的な研究にもとづいていない。一種の想像にとどまるにもかかわらず、「マスコミが世論を操作している」という根拠なき噂話にまで発展している、と指摘する。
ちなみに、内閣支持率が最低になることが多いのは、時事通信の世論調査だという。
著者の鈴木督久さんは1957年生まれ。日経リサーチで長く世論調査に関わってきた。現在は同社シニア エグゼクティブ フェロー。東大や早大などでも教えてきた。
上述の、メディアによって内閣支持率に差が出る問題は、すでに答えが出ているのだという。きっかけになったのは2008年7月30日に行われた、福田康夫首相による内閣改造。各社の調査で支持率に大差が出た。朝日は24%。読売は41%。各社は異例の情報交換を行い、調査結果を精査した。
そこで浮上したのが「重ね聞き」の有無だ。
日経の場合、内閣支持を質問して「わかりません」と答えた人には、「お気持ちに近いのはどちらですか」と一度だけ重ねて質問する。読売もほぼ同じ。朝日や毎日は何も言わず、次に移る。
08年9月の麻生太郎内閣の支持率調査では、日経の第一段階の支持率は45%。朝日は48%、毎日は45%。日経の第二段階の結果は53%。「重ね聞き」で8%アップしていた。その後の支持率調査でも、平均で6%アップしていることが分かった。各社の支持率の差は、主として「重ね聞き」という方式をとっているか否かによると見る。
支持率調査は、社によって聞き方に違いがあるので、当然ながら結果が異なる。各社の結果を比較するよりも、同じ社の過去の結果と比較するのが理に適うという。
本書はこのように、理詰めで世論調査に関する疑問や誤解に対して納得できる解説をしていく。以下の構成になっている。
第1章 時代を動かした世論調査
第2章 誰が選挙を予測しているのか
第3章 誰に、何を、どう尋ねるのか――世論調査の現場
第4章 世論調査の起源
第5章 調査をめぐる伝説と誤解、そして真実
第6章 世論調査の未来
「若者の保守化」についても疑問を挟んでいる。というのは、世論調査で「若者」に答えてもらうのは、高齢者に回答してもらうよりもはるかに多くの労力を要するからだ。なかなか協力してくれない20代の集団の中で、協力してくれる集団は、一般的な20代と比べると偏りがあり、著者は「保守的な若者しか協力していないかもしれない」という見方もあることを提示している。
さらに著者が懸念しているのは、世論調査の回収率の低下だ。これはマスコミの調査だけでなく、内閣府の調査でも同じだ。日経の電話世論調査は2020年の平均が46%。「調査に非協力」という人が多数派になっている。
世論調査は有権者の協力によって成り立つ。協力がなければ世論調査は終焉する。総選挙の投票率は50%台に落ち、世論調査は40%台。民主主義に基盤となる「民意」は、きわめてつかみにくくなっている。世論調査の危機は、実は民主主義の危機にも直結するということを、本書を通じて痛感する。
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