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虐待、再会、誘拐。読んで感服したミステリー小説。

朝と夕の犯罪

 本書『朝と夕の犯罪』(株式会社KADOKAWA)は、アサヒとユウヒ兄弟が10年ぶりに再会する場面から始まる。母親の再婚先の歯科医の家に引き取られた小塚旭は難関大学の政経学部の学生だが、弟の正近雄飛はアルバイトをしながら以前入っていた児童養護施設の手伝いをしていた。

 ユウヒはアサヒに狂言誘拐をしないかと持ち掛ける。金は施設を維持する費用にするという。断るアサヒをユウヒは、過去の秘密をバラすと脅迫し、引きずり込む。血のつながりはない「兄弟」の過去がロードムービーのように語られる。

 10歳と9歳の兄弟は、父と車上生活をしながら九州から関東へ来たのだった。寺社で賽銭泥棒をして生活費を稼ぎ、道の駅に寝泊まりする極貧の毎日。車さえなければ、こんな暮らしから抜け出せると思ったアサヒは、車のガソリンタンクに砂糖を入れて壊そうとする。車に乗った父は戻らず、亡くなってしまう。

 二人は児童相談所に保護され、本当の兄弟ではないと知らされる。アサヒだけが小塚家に引き取られ、音信普通になっていたのだ。偶然の再会はユウヒが仕組んだものだったが、弱味があるアサヒは犯行計画に協力することになる。

狂言誘拐のターゲットになった令嬢

 誘拐のターゲットは、元県会議員で市長選に立候補を予定している松葉修の娘美織だった。お嬢様学校の高校1年生だが、家族と折り合いが悪く、家を出るために協力するという。松葉が警察に通報するかを見極めるために、選挙事務所にボランティアとしてアサヒは潜り込み、美織の兄の東大生・由孝と打ち解ける。

 美織が行方不明になり、身代金1000万円を要求する脅迫状が届くが、選挙への影響を考え、警察には届けず、身代金を払うことになった。運搬役には由孝を指名するはずだったが、犯人は由孝以外の人物をと要求。松葉家の意向として、急きょアサヒが運ぶことになった。

 狼狽するアサヒだったが、ユウヒの指示に従い、何度も電車を乗り越え、追跡を振り切り、なんとか身代金を目的地に運ぶ。ところが、ユウヒは美織に刺され、命はとりとめるが、金を奪われる。いったい何があったのか。ここで第一部が終わる。

 第二部は、神倉駅前交番に勤務する狩野雷太が、マンションの一室で女児の遺体と衰弱した男児を保護する場面から始まる。本書のシリーズ前作『偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理』を知る人にとっては、いよいよお待ちかねの警察官が登場、というところだ。

 二人の幼児を家に残して交際男性の家にいた母親の吉岡みずきという女性は逮捕されるが、自分の名前すら答えず、偽名らしい。神奈川県警捜査一課の烏丸靖子が取り調べに当たる。亡くなった女児は真昼、生き残った男児は夕夜、ということは分かったが、黙秘が続いている。

 児童養護施設に保護された男児の面会に、狩野は最初に保護したから、と同席する。狩野はかつて、県警捜査一課に籍を置き、「落としの狩野」という異名を取る取り調べの名人だった。烏丸も捜査に参加していたある殺人事件で、過酷な取り調べを苦にして、被疑者が自殺するというミスを犯し、狩野は捜査一課を追われたのだ。

 「あんたはもう刑事じゃない。捜査に関わる資格はない」と反発する烏丸。第二部は確執する二人を軸とした警察小説の趣きを帯びる。

 児童虐待の疑いが濃い事件は、マスコミによって大々的に報道されていた。「自称・吉岡みずき容疑者」としてデリヘルのホームページの写真が公開され、写真を見た市民からの情報提供で、行方不明になっていた松葉美織だったことが分かった。

 父親の松葉修への事情聴取から、8年前に誘拐事件があったことが判明し、美織の自作自演らしいことや共犯者がいたことが浮かび上がる。アサヒとユウヒは今、どうしているのか。本当の兄弟ではないというのはどういうことなのか、虐待された子供たちの父親は誰なのか、さらに、第一部の結末、なぜユウヒは美織に刺されたのか? さまざまな疑問が浮かぶ。

 本来、捜査に関わらない狩野だが、粘り強く真相に近づく。これがシリーズ化される由縁だろう。また、第二部には、夕夜が保護された施設にいる千夏という女児の視点も登場する。巻末の主要参考文献には児童虐待を扱った本が並び、本書にはさまざまな虐待が描かれているが、千夏を導入することにより、陰湿な印象が和らげられている。

 第一部と第二部がどうつながるかと不審に思いながら読んだが、美織を接点として仕掛けをふくらました著者の力技に感服した。

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 著者の降田天(ふるた・てん)は、プロット担当の萩野瑛(はぎの・えい)さんと執筆担当の鮎川颯(あゆかわ・そう)さんによる作家ユニット。二人は早稲田大学第一文学部の同級生。少女小説作家として活躍後、「女王はかえらない」で第13回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、同名義でのデビューを果たす。「小説 野性時代」掲載の「偽りの春」で第71回推理作家協会賞(短編部門)を受賞。

 BOOKウォッチでは関連で、桐野夏生さんの長編小説『砂に埋もれる犬』(朝日新聞出版)『親の支配 脱出マニュニュアル 心を傷つける家族から自由になるための本』(講談社)『育てられない母親たち』(祥伝社新書)『虐待死』(岩波新書)などを紹介済みだ。



 


  • 書名 朝と夕の犯罪
  • 監修・編集・著者名降田天 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2021年9月29日
  • 定価1870円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・333ページ
  • ISBN9784041111642

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