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「男しかイケない」少年がついた、小さな嘘。その結末は――。

僕は失くした恋しか歌えない

 「親ガチャ大当たり! 友達はイケてるセレブばかり。なのに、どうしてこんなにつらいんだろう」――。

 本書『僕は失くした恋しか歌えない』(新潮社・11月30日発売)は、「オープンリーゲイ」として創作を続ける現代歌人協会賞受賞作家・小佐野彈(おさの だん)さんの自伝的青春小説。

 グループ企業の御曹司、幼稚舎から慶應、大学卒業後は台湾で起業、「オープンリーゲイ」の歌人として新人賞を総なめ......と、ドラマのような人生を送ってきた著者。

 本書では、恋に恋する「僕」が出会いと別れを経て大人になっていく過程を、短歌をまじえて綴っている。

 「性愛の対象が同性であることに気づいたのは、中学生のころだった。きっと、あの時分から、僕は恋に恋をしていたのだと思う」

二元論が苦手

 「ダン君はさ、俺に恋をしてるんじゃない。恋に恋してるんだよ」――。5年前の夏、一番好きだったひとからそう言われ、僕はフラれた。

 自分がおしゃべりで落ち着きがないぶん、物静かな「雰囲気イケメン」が好きなのだが、当時の彼氏はそんなタイプだった。

 擁(いだ)きあうときあなたから匂い立つ雌雄それぞれわたしのものだ

 僕は子供のころから「二元論が苦手」。女と男、右翼と左翼、保守と革新、善と悪......。あらゆる二元論が「僕たちの生きる世界を息苦しくしている」と感じていた。

 「たったひとりの肉体や精神のなかに、女がいて、男がいる。善があって、悪がある。誰もかれもが、こころのなかに、もやもやとしたグラデーションを抱えて生きている。とはいえ、『矛盾』を引き受けながら生きることは、実はけっこう勇気がいる」

どうしても歌でしか言えない

 僕は中学生のころに歌を詠みはじめた。歌は「日常のため息」のようなもので、のめりこむほどではなかったが、その彼氏と付き合うようになって変化があった。

 「どうしても歌が必要になったのだ。彼と会うたびに。あるいは彼のことを思うたびに、心の奥底でマグマのように滾(たぎ)りはじめる激しい感情は、どうしても歌でしか言えない、と思った」

 毎日スマホのメモに31文字を打ち、ひと月に300首以上うまれたことも。そして今では歌誌の同人になり、歌を発表するようになった。


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著者の小佐野彈さん(画像提供:新潮社)

普通の恋を、しなくては

 「性愛の対象が同性」と気づいた中学生の僕は、BL小説やBLマンガをむさぼり読み、そこで繰り広げられる甘酸っぱい恋模様に魅了された。

 しかし、同級生の話題は恋のことばかり。ファンタジーの世界に閉じこもっていられるほど、甘くなかった。「ダンって、女に興味なさそうだよね」「ひょっとしてホモなんじゃない?」......との声が耳に入ってきた。

 「やばい、やばい。僕も女の子に恋をしなくては。普通の恋を、しなくては。だけどどうしたらいいんだろう。(中略)『普通の恋』へのプレッシャーが、日々強まってゆく」

僕のついた「小さな嘘」

 そんな僕にも、20年近く忘れられないひとがいる。彼女の名はアイコちゃん。帰国子女の、とても美しい子だったが、心身の調子を崩して学校を欠席しがちだった。

 「俺が男もイケるのは知ってる?」――。僕はアイコちゃんと「ともだち」になるにあたってセクシュアリティを明かしておこうと思い、そう問うた。

 当時は「男しかイケない」と認めることが怖くてできず、「男もイケる」と「小さな嘘」をついた。アイコちゃんは「気にしないよ」と言った。

 遅刻の常習犯、喫煙、出会い系......と、かなり奔放だった高校生の僕。そこに現れたアイコちゃんもまた、不安定ながら奔放だった。

 「法の枠すれすれの青春をわけあうことで、僕たちはお互いに生きていることをたしかめあっていたのかもしれない。(中略)友情とも愛情とも言えない、不思議な連帯がうまれていた」

 そのうち僕たちが「付き合っている」との噂が広まり、僕は「アイコちゃんの彼氏」という体で過ごした。「普通」の男子高生になったことを、家族は喜んだ。

 ところが、「小さな嘘」の上に成り立った関係は、歪みはじめた。ある日、アイコちゃんが僕の手に指を絡ませて来たのだ。そのころから僕は、アイコちゃんを恐れるようになる。

 まぼろしの春に溺れる少年が拾いあつめてゆく嘘の種

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 同級生男子への片思い、出会い系サイトでの冒険、人生初の大失恋、家族へのカミングアウト......。自らのセクシュアリティに戸惑う少年の内面を、どこまでもリアルに綴っている。こんなに赤裸々でいいのかと、読んでいてドキドキした。

 親ガチャ大当たりからの、ドラマ並みに山あり谷ありの、僕の人生。「男だから」「セレブだから」との見方では、そのひとの本当の心まではわからない。自分のなかの「普通」を揺さぶられる1冊だ。


■小佐野彈さんプロフィール

 1983年東京・世田谷生まれ。慶應義塾中等部在学中に作歌を始める。慶應義塾大学経済学部卒。大学院進学後に台湾にて起業し、2021年11月現在は台湾台北市在住。2017年「無垢な日本で」で第60回短歌研究新人賞受賞。2019年、第一歌集『メタリック』で第63回現代歌人協会賞、第12回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞。他の著書に、小説『車軸』、第二歌集『銀河一族』、『ホスト万葉集』『ホスト万葉集 巻の二』(俵万智、野口あや子との共編著)がある。


※画像提供:新潮社



 


  • 書名 僕は失くした恋しか歌えない
  • 監修・編集・著者名小佐野 彈 著
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2021年11月30日
  • 定価1,925円(税込)
  • 判型・ページ数四六判変型・271ページ
  • ISBN9784103543114

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