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『元彼の遺言状』続編。ミステリーとしても、お仕事小説としても面白い。

倒産続きの彼女

 「彼女が転職するたび、企業は必ず倒産する――婚活に励むぶりっ子弁護士・美馬玉子と、高飛車な弁護士・剣持麗子がタッグを組み、謎の連続殺『法人』事件に挑む!」。

 キャラクター造形と発想力が評価され、満場一致で第19回『このミステリーがすごい!』大賞に選ばれた『元彼の遺言状』。待望の続編となるリーガル・ミステリー『倒産続きの彼女』(ともに宝島社)が本日刊行された。

 著者の新川帆立(しんかわ ほたて)さんは、東大卒・元プロ雀士・元弁護士という異色の経歴で話題。デビューからわずか9カ月でシリーズ累計50万部を突破した。

■著者メッセージ

 「本作ではニューヒロインが登場します。まさか主人公が変わるとは誰も予想していなかったでしょう。でも、私の中には紹介したい女の子がまだまだいるのです。読者の予想を裏切り、期待を超えていきたいです。強く優しいヒロイン達との冒険をお届けします!」

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『元彼の遺言状』(画像提供:宝島社)

どうして私が、どうしてあの子が

 本作の主人公・美馬玉子は、結婚とキャリアで揺れ動く28歳の弁護士。前作の主人公・剣持麗子は、玉子と同じ弁護士事務所の先輩弁護士として登場する。

 桃色のマニキュアに白のワンピースで、玉子が合コンに勤しむ場面からはじまる。「ブリッコばっかりして、男に媚を売って」と思われがちだが、玉子は劣等感の塊だった。

 「私みたいな不美人は、放っておくと彼氏もできず、結婚もできない自信がある。だから、頑張っているだけだ」

 玉子と麗子はよく一緒に仕事をする関係だが、玉子は麗子が苦手だった。「そばにいると、自分がみじめに思える。だから、なんとなく嫌い」。

 麗子は、都内の中高一貫進学校を出て名門私立大学に通い、するっと司法試験に合格。実家は金持ちで容姿端麗......。一方の玉子は、地方から出てきて奨学金で学校に通い、祖母の世話をしながら働いている。

 「この世の不公平や不条理が許せない。いつも思ってしまう。どうして私が、どうしてあの子が、と。(中略)私にできることは限られている。働くしかない」

 婚活も仕事もがむしゃらに頑張る玉子。そんなある日、玉子は麗子とある案件でコンビを組むことになる。

「首切り部屋」の死体

 老舗アパレル企業のゴーラム商会が、倒産の危機に瀕しているという。同社の外部弁護士宛ての窓口に、こんな奇妙な通報が。

【件名】倒産続きの同僚

 「経理部の『近藤まりあ』を知っていますか。彼女が転職するたびに、会社が潰れるんです。(中略)彼女が過去に勤務した三社はすべて、倒産しています。こんな偶然って、あります? 彼女が不正行為をして、潰して回っているんじゃないですか。(後略)」

 玉子と麗子は「近藤まりあ」の身辺調査に着手することに。すると、近藤の年収からは想像しがたいキラキラの私生活がSNSにアップされていた。会社の金を横領しているのか? 倒産は彼女の仕業だったのか?

 ゴーラム商会の社屋には、通称「首切り部屋」という部屋がある。社員のヒアリングで訪問した日、玉子と麗子はそこで死体を発見する。赤黒い沼のような血の中心に、女が転がっていて――。


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『倒産続きの彼女』(画像提供:宝島社)

醜いアヒルの子の定理

 劣等感の強い玉子に影響を与えるものとして「醜いアヒルの子の定理」が出てくる。

 白鳥の子は、アヒルと見た目が異なっていたため虐められた。しかし、白鳥とアヒルの違いをN個見つけると、アヒルAとアヒルBにも同じく違いをN個見つけられるという。ある人物は玉子にこう言った。

 「だから、似ているとか、違うとか、そういう概念はデタラメなんです。違いは同じだけある。人間の側で、どの違いを重視するかによって、同じグループにくくったり、区別したりしているんです」

 前作では、「女性弁護士」という属性だけで著者と麗子を同一視するレビューもあったという。そこで本作では、麗子と異なるタイプの玉子を描くことで「一定の属性でテンプレート的に人を見る見方にNOを突きつけたい思い」があったそうだ。


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著者の新川帆立さん(画像提供:宝島社)

 いくつもの謎が解けたとき、頭の中を整理して、もう1度最初から読みたくなった。ミステリーとしても、お仕事小説としても面白い。人物が次々登場して物語がどんどん広がっていく、なんとも重層的な作品。見逃さないでほしい。

 本日、前作『元彼の遺言状』の文庫版が同時刊行された。宝島社の特設サイトでは、『倒産続きの彼女』の第1章を漫画&小説で試し読みできる。


■新川帆立さんプロフィール

 1991年生まれ。アメリカ合衆国テキサス州ダラス出身。宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒業後、弁護士として勤務。高校時代は囲碁部に所属し、全国高校囲碁選手権大会に出場。囲碁部で麻雀にも興味を覚え、司法修習中に最高位戦日本プロ麻雀協会のプロテストに合格し、プロ雀士としても活動経験がある。作家を志したきっかけは、16歳のころ夏目漱石の『吾輩は猫である』に感銘を受けたこと。作家になるため「粘り強く長期戦に対応できるための食い扶持が必要」と考え、弁護士になる。第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、『元彼の遺言状』でデビュー。現在は作家として活動。アメリカ在住。


※画像提供:宝島社



 


  • 書名 倒産続きの彼女
  • 監修・編集・著者名新川 帆立 著
  • 出版社名宝島社
  • 出版年月日2021年10月 6日
  • 定価1,540円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・328ページ
  • ISBN9784299021243

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