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じわじわ主人公に惹かれていく。最新刊から読んでみて。

猫弁と鉄の女

 大山淳子さんの「猫弁」(ねこべん)シリーズ最新作『猫弁と鉄の女』(講談社)が刊行された。

 「猫弁」は累計40万部突破の人気シリーズ。多くのファンに愛されたが、惜しまれつつ2014年に第1シーズンは完結。そして昨年、待望の第2シーズンがスタートした。本書は第2シーズン2作目となる。

 1作目から順に読まないといけないかというと、そんなことはない。「猫弁」シリーズは「どれから読んでも大丈夫!」とある。登場人物の愛すべき人柄といい、相当高い頻度で笑いを誘う文章といい......たしかに、初めてでも何度目でも楽しめるにちがいない。

奇妙な事件を引き寄せる弁護士

 主人公・百瀬太郎(ももせ たろう)は41歳、独身。通称「猫弁」。冴えない容貌、天才的な頭脳、人の幸せを第一に考える稀代のお人好し弁護士である。

 「変わった人だが、感じがよいのだ。ひょっとすると、まっとうな人が変わり者に見えてしまう社会なのかもしれない」

 新築ビルのはざまに、今にもくずれそうな3階建てのビルがある。1階のドアは「入るな危険」と警告するかのようにショッキングイエローで塗られ、ドアの中央にはしぶい銀色のプレートに「百瀬法律事務所」と表記されている。

 百瀬法律事務所には現在、猫が13匹いる。ペット訴訟の末に引き取り手がなくなった猫たちを「一時的にあずかる」うちに、猫の避難所のようになってしまった。業界では「猫弁」と揶揄されている。

 そんな百瀬は今日も変わらず、奇妙な事件を引き寄せる。

 たまたま見かけた迷子の大型犬(犬種はサモエド)を追いかけたなりゆきで、そのサモエドを一時的に預かることとなった老婦人の小高トモエ。そこをたまたま通りがかった百瀬が、小高のサポートをすることとなる。

 ある日、サモエドは小高の庭で、本気モードで土を掘り始めた。すると、なんとそこから江戸時代の千両箱が出てきて――。

決意した「鉄の女」

 もうひとりの主人公とも言える宇野勝子は47歳、2世議員。通称「鉄の女」。国民に愛され「鉄の男」と呼ばれた父は10年前に他界。急遽、勝子が地盤を引き継ぐこととなった。

 勝子はずんぐりとした体つき、どんぐりのようにくりっとした目が父親そっくり。しゃべりはスローモーで、演説に求心力がない。「親の七光りも十年経てば風前の灯である。そろそろ『政策』で打って出る時期だ」として、秘書の佐々木はこう考える。

 「力強い政策、それを推し進める気迫。時には非情とも言える決断をする『鉄の女』として注目を集めたい。『鉄の男』の娘なのだから、『鉄の女』でなければならない」

 勝子は次の選挙で「花粉症対策を公約にする」と言う。それは「都下山岳部の杉を全部伐っちゃう」というもの。佐々木は「いけるかもしれない」と思い始める。

 勝子と佐々木は伐採許可を得るため、多摩地域のもえぎ村へ向かう。村長によると、村の森林を伐採するには「山の神」と呼ばれる伝説の木こりの許可が必要という。

 伝説の木こりとはいったい......。諦めるかと思いきや、勝子は「所有者から土地を買い上げたら、こちらの好きにできる」と言い出し、私費を投げ打って森林を購入。

 「私財を投じて花粉を一掃する女政治家の鉄の決意」とマスコミにデカデカと報じられ、「宇野カツフィーバー」まで巻き起こる事態に。勝子はひとりの女政治家として堂々、認知されることとなるが――。


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こんな人が実際にいたら

 百瀬と勝子の物語がどう結びつくのか、中盤まで想像がつかない。百瀬が勝子の事務所の顧問弁護士を依頼されることになりようやく、並行して進んでいた2人の物語が重なる。

 特に印象的だったのは、登場人物1人ひとりのキャラクターの立ち方。百瀬、勝子、老婦人の小高、秘書の佐々木、伝説の木こり、百瀬の婚約者......全員がいきいきとそこにいて、もはや誰が主人公かわからないほどだった。

 「あなたの真っすぐさを、決して笑わない。人生いろいろ。ぽかぽかとした勇気をあなたに」

 本書で初めて「猫弁」を読んだが、じわじわと、不器用で真っすぐな百瀬の魅力に惹かれていった。講談社の『猫弁』特設ページでは、著者が百瀬への思いをこう綴っている。

 「こんな人が実際にいたら、ずいぶんと世の中が明るく見えるんじゃないか。そんな思いをこめて、百瀬を書いています」

■大山淳子さんプロフィール

 東京都出身。2006年『三日月夜話』で城戸賞入選。08年『通夜女』で函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞グランプリ。11年『猫弁 死体の身代金』で第3回TBS・講談社ドラマ原作大賞を受賞し、デビュー。12年、13年にドラマ化された。「猫弁」シリーズの第1シーズンに『猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち』『猫弁と透明人間』『猫弁と指輪物語』『猫弁と少女探偵』『猫弁と魔女裁判』、第2シーズンに『猫弁と星の王子』がある。18年『赤い靴』が第21回大藪春彦賞候補となる。他の著書に「あずかりやさん」シリーズ、『イーヨくんの結婚生活』など。


※画像提供:講談社



 


  • 書名 猫弁と鉄の女
  • 監修・編集・著者名大山 淳子 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2021年7月26日
  • 定価1,650円(税込)
  • 判型・ページ数四六変型判・306ページ
  • ISBN9784065237700

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