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シリーズ累計25万部突破! ドラマに満ちた「あずかりやさん」

あずかりやさん

 たいていの物語の主人公は生物である。大山淳子さんの本書『あずかりやさん 彼女の青い鳥』を読んで、こんなものまで主人公になれるのか? と、主人公の多様性に驚いた。

一日百円で何でもあずかる「あずかりや」

 「一日百円でどんなものでもお預かりします。お気軽にお立ち寄りください。 店主」――。東京・下町でひっそりと営業する「あずかりや」。

 大山淳子さんの『あずかりやさん』シリーズ(ポプラ社)は、2013年の刊行以来、累計25万部を突破した。本書『あずかりやさん 彼女の青い鳥』はシリーズ第3弾。単行本と文庫が同時刊行された。

 本書は連作5話で構成され、主人公は以下の5とおり。

・「あずかりや」の白猫にくっつくノミ。寿命わずか二ヶ月。
(「ねこふんじゃった」)

・買い物依存症の老女。百均で商品を三つ買うことが日課。
(「スーパーボール」)

・四歳ほどの青い鳥・ルリビタキ。もうすぐ寿命を迎える。
(「青い鳥」)

・三十年前、作家がデビューする前に書いた手書き原稿。編集者から突っ返され続け現在に至る。
(「かちかちかっちゃん」)

・「あずかりや」店主の父の誕生祝いに贈られた振り子の柱時計。二か月間の修理を経て店に戻る。
(「彼女の犯行」)

ノミや原稿は何を考えている?

 「あずかりや」の店主はおおよそ30歳、目が見えず点字本を読み、きちんと掃除をし、穏やかな表情、透き通った声の持ち主だ。事情を抱える客が、ある品物を携えて店主のもとへと足を運ぶ。

 かなりくたびれたキリンのぬいぐるみを三日間預ける親子。自分に課した法律を破り百均で商品を四つ買ったことを悔い、四つすべてを一日預ける老女。三十年間の血と汗と涙の結晶である原稿を預けようとする、鳴かず飛ばずのミステリー作家。好きな人への手紙を半年間預ける女子学生――。

 預ける人物と品物に隠された5つのドラマがそれぞれに面白く、最後まで興味の糸は途切れない。主人公がノミだったり原稿だったりして、こんな口調でこんなことを考えているのか? と新鮮な感覚で読める。例えば、こんな描写がある。

「自分の経験は限られるから、仲間のおしゃべりを聞いて世界を理解し、生まれる前の歴史をせっせと自分のものにしている。...なにせ二ヶ月に一度は死なねばならぬ計算だから、おいらたちにとって死は日常なのである。...彼ら(人間)はおいらたちに比べ、あまりに長い(命の)カウントダウンであるから、バックミュージックのようにとらえてしまって、ふだんは意識しないのだろう」(ノミ)
「俺には里田(作家)の三十年間が詰まっている。...しかしそれはあずかりやにとって、『紙の束』なのである。おそらくこの世のすべての、俺たち以外のすべての人間にとって、『紙の束』であり、燃えるゴミなのである」(原稿)

 言葉が歯切れよくポンポン飛び交うところに、大山さんの脚本家としての顔が垣間見える。物語の奥行きの深さと軽妙な筆致が、読む者を飽きさせない。

 大山淳子さんは、東京都生まれ。2006年『三日月夜話』で城戸賞入選。08年『通夜女』で函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞グランプリ。11年『猫弁 死体の身代金』でTBS・講談社ドラマ原作大賞を受賞し、デビュー。本欄では『リアルプリンセス』(ポプラ社、共著)を紹介済み。

  • 書名 あずかりやさん
  • サブタイトル彼女の青い鳥
  • 監修・編集・著者名大山 淳子 著
  • 出版社名株式会社ポプラ社
  • 出版年月日2019年5月10日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・228ページ
  • ISBN9784591162651
 

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