「その恋、叶えたいなら"野生"に学べ!!」――。瀬那和章さんの著書『パンダより恋が苦手な私たち』(講談社)は、「イケメン変人動物学者×へっぽこ編集者コンビ」がおくる新感覚ラブコメディー。
パンダと恋がどう結びつくのかギモンに思いつつ読んでみると、動物たちの求愛行動から恋の悩みを解決するという、なんとも斬新なものだった。
次々と飛び出す動物のトリビア。『ざんねんないきもの事典』シリーズ(高橋書店)を思い出すが、同シリーズの監修を務めた動物学者・今泉忠明さんが推薦コメントを寄せている。
「ヒトよ、何を迷っているんだ? サルもパンダもパートナー探しは必死、それこそ種の存続をかけた一大イベント。最も進化した動物の『ヒト』だって、もっと本能に忠実に、もっと自分に素直にしたっていいんだよ」
柴田一葉(しばた いちは)は、女性向けカルチャー雑誌「リクラ」の編集者をしている。子供のころの夢はモデル。しかし、中学を卒業するころに「私は、モデルにはなれない」と気づいた。高校時代をなんとなく過ごして大学生になると、しばらく距離を置いていたファッション誌を手に取った。
「私の夢は、形を変えて蘇った。モデルになれなくても、この世界に関わっていたい。それに、脚が太いことがコンプレックスだった私を、ファッションは救ってくれた。決めた。ファッション誌の、編集者になる」
唯一内定をもらえたのが「月の葉書房」だった。ところが入社式当日、同社はファッション誌から撤退すると発表。それから3年。一葉は漫然と、まるで興味が持てない情報をまとめ続けている。
「やる気あんのかと聞かれても、ありませんよ。私がやりたかった仕事はこれじゃねぇ」
趣味や習い事の記事ばかり作ってきた一葉が、いきなり恋愛コラムを担当することになった。25年間の人生で付き合ったのは1人。恋愛の引き出しが少なすぎるというのに。
「なんで、私が、恋愛コラムなんて書くことになったんだ!」
もともとは、一葉の憧れのモデル・灰沢アリアが書くはずだったのだが......。いざ本人に会ってみると、とんでもない女王様気質! 「名前をかしてやるから」「あんたが書けばいいだろ」と、無茶振りしてきたのだった。
さらに「なにもしないくせに、今いる場所のせいにしてがんばれないやつは、どこにいったってがんばれねぇよ」と活を入れられ、しぶしぶ引き受けることに。
「ずっと、ここは私の望んだ居場所じゃないと思っていた。だから、編集長に叱られても、企画がボツになっても平気だった。でもそれが、ただの言い訳だったとしたら」
「恋愛について研究しているスペシャリストがいる」との噂を耳にした一葉。コラムのヒントを求め、早速取材を申し込む。
その人物とは、北陵大学准教授・椎堂司(しどう つかさ)。イケメンだが、動物たちの求愛行動と関係ないことで人と関わるのが嫌いという変わり者。そう、椎堂の研究対象は人間の恋愛ではなく、動物の求愛行動だったのである。
「動物たちの求愛行動はシンプルだ。気持ちを表現する手段も、パートナーを選ぶ基準も決まっている。(中略)面倒くさい生き物は人間だけだ。人間の求愛行動には、野生が足りない」
思っていたのと違うが、それでももう少し、この人の話を聞いておいた方がいい予感がした。灰沢アリアが読者の恋の悩みに動物の求愛行動をからめてアドバイスする(実際は、椎堂の話を聞いた一葉が灰沢アリアになりきって書く)恋愛コラム「恋は野生に学べ」は、こうして始まった。
「人間の求愛行動には、野生が足りない」とはどういうことか。ここではペンギンを例に見てみよう。読者の悩みはこうである。
「最近、彼氏にフラれました。別れ話のときに言われたのが『君は悪くない。僕が君を好きじゃなくなってしまっただけ』。(中略)悪くないのに(中略)フラれるなんて意味がわかりません」
つまり、彼氏が何を基準に相手を選ぶのかがわからないのだ。そこで一葉は、「相手を選ぶ明確な基準がある動物」について椎堂に質問する。
「では――野生の恋について、話をしようか」。椎堂によると、一般的にペンギンは18種類しかおらず、「それぞれの種でメスがオスを選ぶための基準が異なる」(オスが獲得した縄張り、鳴き声の低さなど)という。
「人間には、他の動物なら生まれた時から決まっている、相手を選ぶたった一つの基準がない。そのせいで、いったいどれだけ無駄な労力を払っているのだろうな。本当に非効率的な生き物だよ」。たしかに「無駄」だし「非効率」だ。それでも、一葉は......
「その非効率さが、ちょっとだけ愛おしいと思った。もしかしたら、私たちは、その非効率さのことを恋と呼ぶのかもしれない」
ユキヒョウ、ペンギン、パンダ、チンパンジー、ハリネズミ......。動物たちの求愛行動に「へぇ!」となり、それらと人間の恋を見事に結びつけ、じんとくる言葉もユーモアも、しっかり織り交ぜられている。これはかなり完成度の高いエンターテインメント小説ではないだろうか。
■瀬那和章さんプロフィール
1983年兵庫県生まれ。2007年に第14回電撃小説大賞銀賞を受賞し、『under 異界ノスタルジア』でデビュー。真っ直ぐで透明感のある文章、高い構成力が魅力の注目作家。他の著作に「花魁さんと書道ガール」シリーズ、『雪には雪のなりたい白さがある』『フルーツパーラーにはない果物』『今日も君は、約束の旅に出る』『わたしたち、何者にもなれなかった』などがある。
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