動物を取り上げてベストセラーになった『ざんねんないきもの事典』シリーズ(高橋書店)と『わけあって絶滅しました。』シリーズ(ダイヤモンド社)の監修者、今泉忠明さんの新しいシリーズが『ずるい いきもの図鑑』(宝島社)だ。本書『もっとずるいいきもの図鑑』(同)は、その第二弾。「いま、この世に存在しているいきものは、すべてすごくて、ちょっとずるい」という生物観に立っている。
いきもの1種類を見開き2ページで紹介している。森松輝夫さんのイラストがカラフルで大きくあしらわれているので、絵本感覚で子どもでも楽しめる。漢字にはルビがふられ、小学生でも読めるようになっている。
第一弾では、共生、片利共生、寄生を中心に取り上げた。共生はイソギンチャクとクマノミのように共に助け合って生きているいきもの。片利共生とは、一方だけが得をして、一方は損得のないきもの関係だ。サメとコバンザメの関係が相当する。寄生は、一方は得をするが、一方は損しかない関係だ。ウイルスと人間の関係に当たる。
本書では、新型コロナウイルスの世界的な蔓延を受けて、ウイルスに1章割いているのが特徴だ。
本書の構成は以下の通り。
第1章 ずるくて可愛いほ乳類 第2章 けっこうずるがしこい鳥たち 第3章 ずるくておかしい魚とは虫類 第4章 見た目もすごい、ずるくて怖い昆虫 第5章 食肉植物たちのずるい技 第6章 ウイルスはやっぱりずるい!
どこから読んでもいい。以下の調子で長いタイトルがあり、さまざまな動物の生態について解説が付いている。子どもがイラストを見ている横で、親がかいつまんで話すといいだろう。
・ライオンのメスは集団で子育てするが、嫌いなメスライオンの子をいじめる!? ・迷彩柄を利用してトラは狩りをするが、ときどきカラスにバラされる ・食べ残して捨てたのに、とられると激怒するヒグマ ・ダチョウのヒナは、喧嘩に負けた親を裏切る薄情もの ・求愛の小魚をもらうだけもらって、ふってしまうアジサシのメス ・実はシャチのおこぼれを食べていたアホウドリ ・歩けないように見えて、実は、ナマコは歩いて獲物を捕る ・怖そうな顔で強そうなくせに実は弱いコモドオオトカゲ ・アリに擬態して、アリの威を借りるアリグモ ・カミキリムシのさなぎにタマゴを産みつけ、我が子の餌食にするウマノオバチ ・おいしい匂いでおびき寄せ、ネズミも食べてしまう巨大ウツボカズラ
「第6章 ウイルスはやっぱりずるい!」を読めば、「無生物と生物」の中間的存在であるウイルスについて理解が深まるだろう。
・ウイルス一般は、普段ほとんど死んでいるのに、動物の細胞に入ると生き返る!
ウイルスが空気中(動物の細胞の外)にいる場合は、増えることも出来ず、自らを生かすための働き(食べたり、排泄したりすること)も出来ない。だから、死んでいるのと同じだ。しかし、動物の細胞の中に入って初めて増えることが出来、多くの分身をつくる。
・感染した人を生かし、他の人に感染させる。それが新型コロナウイルスの生き残りの技(?)
感染した人がすぐ病気になり死んでしまったら、ウイルスも死んでしまう。たまに、感染した人が死んでしまうのは、「ウイルスにとっては想定外かも」。本当は生きていて、ウイルスを広げてくれた方がいいからだ。
・二枚貝に蓄積されて人に食べられるのをじっと待つノロウイルス
ノロウイルスの感染経路は、感染した人の吐しゃ物(嘔吐と下痢によって排泄された物)だ。それらが流れた川から海に行きカキなどの二枚貝に蓄積される。そして、そのカキとともに人間に食べられるのを待つ。食中毒を通して、またノロウイルスは繁殖する。「じっと待つ」というのを想像すると、怖くなる。
しかし、コラムでは「ウイルスにもいいやつがいる」と人間をウイルスが進化させてきたかもしれない可能性にふれている。ほ乳類の特徴である胎盤の進化にウイルスが関係していたというのだ。
胎盤のまわりに「シンシチン細胞」で出来た薄い膜がある。母体と胎児の血が混じらないようにしている。また、その膜を通して栄養や酸素を供給している。
「シンシチン細胞」はシンシチン遺伝子の作るタンパク質で出来ている。このシンシチン遺伝子は、太古の昔、ウイルス遺伝子だったというのだ。ウイルスについての見方が少し変わった気がして読み終えた。
今泉さんは東京水産大学(現・東京海洋大学)卒。上野動物園の動物解説員を経て、静岡県伊東市の「ねこの博物館」館長。動物にかんする著作が多数。
BOOKウォッチでは、今泉さんが監修した『これをせずにはいられない! 動物たちの悲しき習性図鑑』(学研プラス)のほか、著書の『絶滅野生動物事典』(角川ソフィア文庫)、自叙伝の『気がつけば動物学者三代』(講談社)を紹介済みだ。
「有益」なウイルスについては、『ウイルスは悪者か』(亜紀書房)に詳しい。
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