動物を取り上げてベストセラーになった『ざんねんないきもの事典』シリーズ(高橋書店)と『わけあって絶滅しました。』シリーズ(ダイヤモンド社)の監修者、今泉忠明さんの著書『絶滅野生動物の事典』(東京堂出版、1995年)が、このほど改題され文庫化された。
本書『絶滅野生動物事典』(角川ソフィア文庫)は、絶滅あるいは絶滅しそうな哺乳類・鳥類約120種を興味深いエピソードとともに解説した本だ。『わけあって絶滅しました。』のタネ本とも言える。子どもの本で興味を持った大人向けの「読む」事典になっている。
「まえがき」によると、野生動物の絶滅はヒトが出現してから急激に増えた。3万~1万年前に起こった狩猟による絶滅だ。アメリカ大陸では大型哺乳類の70%が、ヨーロッパでは50%が、オーストラリアでは30%が絶滅したという。だが、これは人類が生存するために避けられないことだった。
さらに1600年代以降、人類による2回目の大絶滅が始まった。環境破壊、人間が持ち込んだ生物によるもの、狩猟が原因だ。本書は2回目の大絶滅以後、消え去った主な哺乳類と鳥類についての現在の記録である。多くの文献を参考に、絶滅した動物の生活や人間とのかかわり、絶滅の状況が物語風に書かれている。
冒頭に出てくるフクロオオカミの話が驚きだ。タスマニアオオカミとも呼ばれるが、カンガルーと同じ有袋類だ。ワラビーなどの小形カンガルーを主に襲った。かつてはニューギニア、オーストラリア、タスマニアで生態的にもっとも高い地位を占めていたが、人類が持ち込んだイヌ科動物のディンゴと競合し、ニューギニアとオーストラリアから消えていった。残ったタスマニアでは、ヒツジなどの家畜を襲ったため、ヨーロッパからの移民に"ハイエナ"と呼ばれ目の敵にされ、虐殺された。1933年以降、捕獲された記録はない。その後保護区が設けられ、生存調査が続いているが、生きているという証拠は得られていないという。
珍しい動物ばかりではない。ライオンやトラも絶滅した亜種や絶滅危惧種があるので、詳しく書かれている。
日本にかかわるものでは、ニホンオオカミについての記述が厚い。絶滅の理由の決定的要因はわかっていない、としている。
「獲物のシカが減少したといっても絶滅にひんするほどではなかったし、外国からイヌが輸入されてジステンパーが流行したことにしても、開拓が進行して狩猟が盛んになったことにしても、そのどれが決め手ともいえない。おそらくそれらの要因が複合的に作用した結果と思われる。それだけに、いまだに謎めいたものを残している。生き残りの噂が絶えないのも、このためである」
馬や家畜を襲ったため、明治になっても懸賞金を出してオオカミ退治を奨励した。岩手県では、オス1頭獲れば親子3人で半年の米代になるほどの大金だったという。
1905年、奈良県鷲家口で捕らえられた若い雄を最後にニホンオオカミは絶滅したようである、と記している。この最後の個体の仮剥製と頭骨は大英博物館にある。探検隊の若き米国人コレクターと日本人猟師との値段交渉の駆け引きを面白く紹介している。
日本にかかわる動物としては、ほかにニホンアシカ、アホウドリ、トキなどにふれている。
精緻なイラスト56点のほか、「世界で一番強いのはトラかライオンか」、「姿を消していく日本在来馬」など45のコラムが掲載され、読み飽きない。「東洋のガラパゴス」は、琉球列島の意義を書いた一文。哺乳類が栄え始めた頃、大陸から分かれ、その頃の動物を保存してきたからだ。イリオモテヤマネコ、アマミノクロウサギ、ケナガネズミ......。琉球列島は「哺乳類の進化の実験室」と書いている。
巻末には絶滅野生動物の種と亜種のリストを収めている。
著者の今泉さんは、東京水産大学卒業。国立科学博物館で哺乳類の分類学・生態学を学ぶ。上野動物園の動物解説員を経て、東京動物園協会評議員。著書に『野生ネコの百科』、『動物行動学入門』などがある。
BOOKウォッチでは、今泉さんの自叙伝『気がつけば動物学者三代』(講談社)、監修した『わけあって絶滅しました。』(ダイヤモンド社)を紹介している。
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