生物の寿命を論じる場合、素人はつい大動物だけに目がいきがちだが、線虫の寿命を研究したこともある分子生物学者の大島靖美さんの本書『400年生きるサメ、4万年生きる植物―生物の寿命はどのように決まるのか』(DOJIN選書)は生物全体を対象に広げ、できる限り最新のデータをもとに寿命について考えさせようとしている。
まずは、表題にある「400年生きるサメ」。2016年に報告されたもので、北大西洋や北極海にすむニシオンデンザメ12匹の眼のレンズの放射性炭素年代測定法で調べて、平均392年+-120年であることがわかったという。これまで脊椎動物で最長寿とされてきたゾウガメやチョウザメの2~3倍である。
「4万年生きる植物」というのは、タスマニアロマティア(豪州)という木で、化石化した葉の放射性炭素年代測定により、少なくとも4万3600年以上の樹齢(1998年発表)であることがわかった。この木は数百本の木が根っこでつながっている群体植物で、すべての木が枯れなければ寿命が続いていることになる。身近な群体植物としては竹林やササがある。マダケは120年、孟宗竹は60年に一度花が咲いて全体が枯れるといわれているが、はっきりとはわかっていないという。
もしかしたら不老不死かもしれない生物もいる。ベニクラゲである。このクラゲは、成熟個体の触手が収縮し、傘が反転、体全体が縮小してポリプに逆戻りする。つまり、大人が赤ちゃん返りするのである。そして、再び大人のクラゲへと生長する能力があることがわかった(1991年)。京都大学の研究者は、この赤ちゃん返りを最高10回繰り返させることに成功している。もし無限に繰り返すことができるなら不老不死ということになるが......。
植物やクラゲの話題はともかく、著者も人の子。「われわれにとって切実な問題である人の寿命」についても考えており、そのことに多くのページを割いている。
寿命は、当然のことながら、生物の遺伝子によってある程度定まっている。その範囲で、長寿を全うする方策としてカロリー制限がある。
著者は「カロリー制限は、線虫、ショウジョウバエ、マウス、類人猿を通じて寿命延長効果があることが証明されている唯一の共通的条件である」といい、「ヒトでも寿命にとって重要な要素であるいくつかの健康指標について、カロリー制限がよい影響を与えることが示されている」と指摘する。 日本には昔から「腹八分に医者いらず」ということわざがあるが、本当だったのである。
カロリーの中身としては、タンパク質のとり方が注目されている。長寿のためにはカロリーの割合として、「65歳頃までは低め(総カロリーの10%程度)がよいという結果が得られている」と著者はいう。また、いくつかの研究が、「いずれも植物性タンパク質が動物性のものよりよい」ことを示している。その理由として考えられるのは、「動物性食品には、体によくないとされるアミノ酸のメチオニンが多く含まれている」ことが理由であろうという。
読者対象として、「ご自分の寿命に感心をもつ中高年の方々、生物に広い興味を持つ一般の方々、生物学の研究者や学生諸君」をあげているだけあって、専門的な内容の個所も少なくなく、読みごたえのある内容だが、実用的な情報もしっかり得られる。
評者は、「筋肉を鍛えるためにサプリメントとして『プロテイン』を摂る人が少なくないが、寿命を考えたら大量摂取は禁物で、とくに動物性プロテインは控えたほうがよさそう」という教訓を得ることができた。
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