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死なないクラゲと人間の体はほとんど違いなし

不老不死のクラゲの秘密

 クラゲを展示のイチオシに据えて賑わっている水族館が増えているという。水中をゆらめく姿に癒しやなごみを感じられたりするかららしい。だが、その存在価値はそんなことだけじゃないらしい。本書『不老不死のクラゲの秘密』(毎日新聞出版)によれば、重傷を負っては再生し、老衰しても若返るスーパークラゲがおり、その研究が進めば、人類の未来に希望が生まれること間違いなしという。

最大でも直径1センチ程度

 このスーパークラゲは「ベニクラゲ」。世界中どこにでも生息しているそうだが、最大でも直径1センチ程度と小さく、うっとりと眺めて癒しを感じるというには物足りないためか、クラゲをウリにする水族館でもなかなかお目にかかれない。

 「不老不死」といえば、紀元前の中国・秦の始皇帝が探し求めたことで知られ、始皇帝は熱意が過ぎたか猛毒を妙薬として飲み逆に早死にしてしまったという説もある。現代では老化の進み具合は遅くなり、寿命も延びて「遅老延死」くらいにはなっているが「不老不死」となると、いまも世界中で研究者らにその秘薬のありかが求められているところだ。

 ベニクラゲをモデルにそのメカニズムを解明しようとしているのが本書の著者、海洋生物学者の久保田信さん。1952年愛媛県生まれ。愛媛大学理学部卒業、北海道大学大学院に進み助手、講師を経て、京都大学フィールド科学教育研究センター准教授を務めた。この間に、ベニクラゲに出会い、その神秘性などに魅せられ2018年7月、和歌山・白浜町に「ベニクラゲ再生生物学体験研究所」を設立して研究を進めている。

死にそうになって復活

 ベニクラゲは、一番新しい分類群であるヒドロ虫綱に属する。つまり、長い進化の過程を経て生まれた種といえ、「不老不死」の進化は新しいということが示唆されているという。

 成熟したベニクラゲのオスとメスはある時間帯にいっせいに放精放卵をする。卵が受精すると卵割がすすみ、1日もかからないうちに「プルヌラ幼生」に。いわば赤ちゃんであるプルヌラは海中を漂いながら、海底の岩や貝殻に付着すると団子状に変化。その後植物のように茎を立たせて花を開かせ、これが八方に広がるよう分身を生む(出芽による無性生殖)。それぞれの分身を「個虫」、全体を「ポリプ」と呼ぶ。この個虫がやがてクラゲとなりポリプを離れて独立する。

 普通のクラゲは、クラゲとなってから時間を経て老いた状態になると泳げなくなり海底に沈む。その後、ゼラチン質の部分が退化し肉団子のような形状となり海中に溶けてしまう。ところがベニクラゲは肉団子状態になると、甲殻類の殻などと同じキチン質の膜で体を覆い、海底の固いものに付着して再びポリプとなる「若返り」を実行するのだ。

きっかけはストレス

 著者は、ベニクラゲのこの「若返り」のメカニズム解明に挑んでおり、本書ではそのヒストリーがつづられている。飼育による若返り実現までには試行錯誤が繰り返され、餌のやり過ぎは禁物、藻の繁茂は危険、介護が重要などの知見を得る。著者は研究の成果から、同じ個体を2回以上若返らせることに成功している。

 ベニクラゲが若返りをするのは、ストレスがきっかけになることが分かっている。針で突き刺すなど物理的な刺激のほか、暮らしている場所が淡水化されるなど大きく変化することも有力らしい。実験所が台風に襲われ、所内に引かれている海水が大雨で淡水状態になったときに若返ったクラゲがいたものだ。

「遺伝子構成はそれほど違わない」

 クラゲはあくまでクラゲ。その不老不死のメカニズムが分かったところで人間に応用できるのか。あんな体が透けてみえるような単純そうな生物と人間とはあまりにも異なるのではないか。

 著者によれば、それは改めるべき考え方。「ベニクラゲと人間は『あまりにも異なる生命体』ではない」という。「ベニクラゲの属する刺胞動物門と、人間が含まれる脊索動物門(あるいは脊椎動物門)も、進化の糸をたぐればしっかりつながっている」。

 この著者の主張に対しては「多細胞動物ということ以外つながりがない」という反論がある。著者は「しかし、わたしは、ベニクラゲと人間の距離は、決して遠くないと思っている。なぜなら、遺伝子構成がそれほど違わないから」と述べる。「だとすると」と著者。「ベニクラゲの若返りのメカニズムがわかれば、人間も永遠に老いずに生き続ける術を手に入れられるかもしれない」。早めの続編を期待したい。

  • 書名 不老不死のクラゲの秘密
  • 監修・編集・著者名久保田 信 著
  • 出版社名毎日新聞出版
  • 出版年月日2018年12月21日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・176ページ
  • ISBN9784620325613
 

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