本を知る。本で知る。

一穂ミチ。本好きなら、見過ごすわけにはいかない。直木賞候補作の衝撃

スモールワールズ

 先日、第165回芥川賞・直木賞の候補作が発表された。選考会は来月14日に行われる。今回は「すごい才能が現れた!!」と話題沸騰中の直木賞候補作、一穂ミチさんの『スモールワールズ』(講談社)を紹介したい。

 一穂さんは2008年にデビューし、BL(ボーイズラブ)小説を中心に活躍。本書で一般小説デビューを果たした。なんでも、担当編集者が一穂さんの作品性を絶賛し、初の一般小説を依頼したという。そうして完成した本書は、全国の書店員や各紙書評で絶賛され、BLのジャンルを越えて一般文芸に衝撃を与えている。

 一穂さんはnoteに現在の心境を綴っている。

 「思いもよらずというか思いもよるわけねえというか、とにかく驚きました。今も実感がありません。推理作家協会賞ノミネートの際『カニの品評会にカニカマが出てしまった』と書きましたが、この度は錦鯉の池の中に紛れ込んでしまった金魚の気持ちです」

6つの世界にちりばめられた6つの人生

 「『手に入らないものが多い人生だった』そう思う人にこそ読んでほしい」――。本書は、6つの世界にちりばめられた6つの人生を通して「愛おしい喜怒哀楽」を描く連作集。

 「驚きの完成度!」「これが天才というものか!」「編集部が騒いでいた理由が一読して腑に落ちました」......。『スモールワールズ』公式サイトを見ると、本書に魅了された人々の声が溢れかえり、その熱量に圧倒される。

 これまでノーチェックだったが、もはや見過ごすわけにはいかないと思い、読んでみた。なるほど、これは面白い。連作集ではあるものの、各話のつながりは注意していないと気づけない微かなものばかり。なんて緻密な構成だろう。

 本書は「ネオンテトラ」「魔王の帰還」「ピクニック」「花うた」「愛を適量」「式日」の6話を収録。各話でまったく読み味が異なる。そして数々の仕掛けが用意されている。いくつか紹介しよう。

 妊娠できない。夫は不倫している。鬱々としていた美和は、ある夜、コンビニで1人の男子中学生と出会う。水槽の中で泳ぐ熱帯魚と孤独な少年を重ねながら、2人の逢瀬は続けられ......。突然の場面転換に愕然とする。(「ネオンテトラ」)
 鉄二の平和な高校生活は一転した。身長188センチ。泣く子も黙る規格外の姉・真央(あだ名・魔王)が出戻ってきたのだ。でかくて豪快で最強の姉が、何かやらかして出戻ってきたと思われたが......。姉のキャラクターが頭から離れない。(「魔王の帰還」)
 兄を殺された深雪は、服役中の加害者に手紙を送る。2010年から2012年まで手紙のやりとりはつづき、2020年の手紙で物語の幕は閉じる。この10年で、被害者遺族と加害者の心境に変化はあったのか。往復書簡で綴られる。(「花うた」)

「この物語は、わたしが見たまぼろしの光」

 個人的に特に刺さったのが「ピクニック」(第74回日本推理作家協会賞短編部門候補作)だった。これは誰の視点から語れているのかと、不思議に感じるだろう。

 娘・希里子が女児を出産した。母・希和子は初孫を抱きながら、「純度百パーセントの喜びの涙」を流して幸福を感じていた。

 「この小さな生き物が、確かにわたしや夫、そしてわたしの子とつながっている。光り輝く糸を小指に結んでもらった気分でした。どうか切れませんように、できるだけ長く、この糸を握っていられますように」

 女児は未希と名づけられた。未希が生後10ヵ月を迎えた頃、単身赴任の夫のところに「たまには行ってあげたら?」と希和子が提案する。希里子は産後初めて、娘と離れひとりで出かけて行った。

 久しぶりに夫婦水入らずで過ごした翌日、希里子のもとに希和子から電話が入る。「――未希が動かないの」。

 未希は不慮の死を遂げた。希和子は「にわか雨が降ってきて、ベランダに干していた洗濯物を取り込んでいる間に未希が転んだ」と説明する。しかし、事故ではなく事件ではないかと、疑惑の目が希和子に向けられる。

 初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘夫婦の生活は、1日のうちに暗転した。あの日、一体何があったというのか。ラストの展開に衝撃を受けない読者はいないだろう――。

 ひとりひとりの「小さな世界」に、ドラマが、喜怒哀楽がある。自分の「小さな世界」にも価値があり、これも1つの作品なのだ、と感じられる。

 「夕方、街が暗くなると、家々の明かりを眺めてしまいます。あの、無名の窓の内側には、どんな人たちが何を思って暮らしているんだろう? 歩きながら、電車に揺られながら、考えずにはいられない。この物語は、そんなわたしが見たまぼろしの光です。でも、どこかにあるかもしれない光です」(一穂ミチさん)
book_20210618205151.jpg

■一穂ミチさんプロフィール

 2008年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。劇場版アニメ化もされ話題の『イエスかノーか半分か』など、著作多数。


※画像提供:講談社



 


  • 書名 スモールワールズ
  • 監修・編集・著者名一穂 ミチ 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2021年4月22日
  • 定価1,650円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・306ページ
  • ISBN9784065222690

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

小説の一覧

一覧をみる

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?