嫌な上司の雑談に笑顔で付き合い、同僚の仕事を引き受け毎日残業。恋人には逆らわず、家族に対しても自己犠牲をいとわない。そんな「優しいあなた」が大切にされるどころか、舐められ、利用され、裏切られるのはなぜなのか。
藤森かよこさんの著書、『優しいあなたが不幸になりやすいのは世界が悪いのではなく自業自得なのだよ』(大和出版)は、仕事や恋愛、家族、友人関係において、「良かれと思ってしたことが裏目に出る」「優しくしたのに裏切られる」「舐められやすい」といった経験を持つ人が、なぜ不幸になるのかを徹底的に分析し、不幸にならずに済む方法を論理的かつ具体的にアドバイスしている。
本書では、「優しい人」を次のように定義している。
「人間一般に愛を持っていて、社会に責任感を持ち、文明社会のマナーであり、教養であり、良識であるところの優しい微笑や優しい眼差しや優しい言葉や優しい振る舞いや優しい配慮を実践できる人」
この条件を満たす人は、素晴らしい人格の持ち主だ。にもかかわらず、不幸になるのは理不尽としか言いようがない。それを「自業自得」とは何事か、と不快に思うかもしれない。しかし本書を読み進むと、なるほど、そういうことかと得心する。
本書は、恋愛編・家族編・仕事編・友人編の4章で構成されている。各章で優しい人が陥りやすい問題を指摘し、そうならないためにどうすればよいかを、文字通り「ズバッと解決」してくれる。
第1章の「恋愛編」では、恋人の「聞き役」に徹してしまう、不満があっても口に出せない、という問題に対して、藤森さんはこう分析する。
あなたのような優しい人は葛藤に弱い傾向がある。人間関係に生じる葛藤を直視したくないあなたは、関わる人々の言動をいいほうにいいほうに解釈しがちだ。葛藤が存在するという事実が存在しないふりをしがちだ。
耳の痛い人も多いのではないだろうか。藤森さんは、優しい人が「葛藤慣れ」するためには、自分の感情を言語化することを勧めている。ノートやスマホにメモをして、自らの感情を直視することで、物事を客観視できるようになる。
「優しさとは従属することではない」と藤森さんは説く。対等な関係を築けてこそ、優しさを発揮できるのだ。
第3章の「仕事編」では、「自分ばかり仕事を押し付けられる」という問題に対し、「優しい人は、相手が誰であれ舐められやすい」と藤森さんは指摘する。
公平に適切に仕事を部下に配分し、管理するのが上司の義務なのに、それができない無能な上司は、優しいあなたに負担をかけることによって、自分の無能さの隠ぺい工作を図る。
(中略)一人で何役もこなす必要のある中小企業だと、結局は責任感のある人に、頼みやすい人に、やたら仕事が集中してしまうということはよくあることだ。
ここでも藤森さんは、そんな優しい人を擁護するどころか、「あなたは信頼されているのではなく、舐められている」と手厳しい。一方で、心を痛めることなく実践できる超簡単な「厚かましいヤツの撃退法」を伝授する。
それは、「何も言わずに相手の顔を数秒間だけ眺める」という方法だ。
睨みつける必要はない。見つめるのではない。会社のトイレの便器を眺めるような目つきで上司や同僚の顔を眺める。数秒間だけ。ただ黙っているだけでも効果がある。
職場においては「色気」よりも「殺気」が大事だと藤森さんは言う。良識やマナーが不要なわけではなく、間違った相手に「優しさ」を発揮してもいいことは一つもない、ということだ。
「こいつは与(くみ)しやすい」と勘違いする馬鹿も少なくないので、基本的には愛想も愛嬌もなくて構わないということだ。
こうした調子で藤森さんは、「優しい人」の考え方を根本から改め、自信と強さを身につけるよう厳しくいさめながらも、「優しいあなたこそ、幸せになるべきだ」と主張する。「優しい人」にも厳しいが、そんな人を利用し、貶める人にはさらに厳しく「クズ人間」と言ってはばからない。
藤森さんは本書のタイトルを、本当は、
「優しい女性は、優しさという美徳を肯定するあまり、優しくないのはいけないことだという思い込みに呪縛され、ついつい自分の優しさの内実を問わず、優しさを発揮する相手と場所と機会を間違えるので、思わぬトラブルを起こすはめになり、他人にも迷惑をかけることになり、結果として不幸になりやすいので、優しい女性が不幸になりやすいのは自業自得だよね」
としたかったと言う。つまり、不幸にならないためには、「優しさを発揮する相手と場所と機会」を見極めることがカギだ。
「どんなに尽くしても報われない」と悩んでいる人は、ぜひ本書で藤森さんの「愛の鞭」を受けてほしい。そして、その優しさを最上の武器として活用し、幸せになる道を自らの手で切り開いていこう。
■藤森かよこさんプロフィール
福山市立大学名誉教授。1953年、愛知県生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程満期退学。元桃山学院大学教授。元祖リバータリアニズム(超個人主義的自由主義)の提唱者で、かつアメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランドの研究者である。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳。『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』『馬鹿ブス貧乏な私たちを待つ ろくでもない近未来を迎え撃つために書いたので読んでください。』(KKベストセラーズ)を刊行し、注目される。
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