ずっと先のことのように思える親の死。しかし、その日は容赦なく訪れる。
2021年5月31日に発売される『母ちゃんのフラフープ』(ブックマン社)は、親との別れをテーマに、田村淳さんが渾身の思いで綴ったノンフィクション作品だ。
2020年8月、がん終末期で入院中の母・久仁子(くにこ)さんは72歳の誕生日をどうしても自宅で祝いたがる。痛い、苦しいと言ったら一次退院の許可が下りないかもしれないと考えて、最後の力を振り絞ったという。
久仁子さんは、一切の延命治療を拒否していた。尊厳死宣言書を残し、自分の最期を決めていたのだ。
やがて和室に僕と母ちゃんのふたりだけになった。
「帰って来られてよかったな、母ちゃん」 母ちゃんは、しばらく黙ったままだったが、ふいに目を開けた。「あつし」「うん?」
「あした、病院に、戻らんといかんでしょう。このままここで死んだら、お父ちゃんに、迷惑、かかるし」
「そんなことを言うのはまだ早いんじゃない?」
ううん、と母ちゃんは小さく首を横に振る。
「もうしんどいわ。次に病院に戻ったら、痛み止めのモルヒネ、どんどん打ってもらう。今しか、ない。だから、なんでも言っておいてな」
強い瞳で僕を見る。
ヘンだな。いざ母親と向き合うと、何を話していいのか思い浮かばない。僕は喋りを商売にしているくせに。本当は山のように話したいことがあるはずなのに。
本書<プロローグ>より。
別れの間際まで家族を気遣う久仁子さんと、話したいことがあるはずなのに言葉が出てこない田村さん。切なくて、涙があふれてくる。
いつか必ず訪れる親とのお別れの前に、この物語を読んでほしい。
旅立つ本人の希望を、息子は、夫は、どのように受け入れたのだろうか。これは、田村さんだけではなく、近い将来、自分にも訪れるかもしれない出来事だ。
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