生き物は、わたしたちを夢中にさせる魅力的な存在だ。
たとえば、動物学者・今泉忠明さんが監修した『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)シリーズは、累計発行部数420万部超を記録。ゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」の世界的ヒットも記憶に新しい。
生き物をどうクローズアップするかで、まだまだ楽しませてくれそうだ。では、こんな切り口はどうだろう?
「どんな動物も 赤ちゃんが元気で たくましく育つことをねがっています。ほっこりイラストでつづる どうぶつたちの妊娠・出産・子育て」
本書『どうぶつおやこ図鑑』(化学同人)は、世界13か国語で翻訳されている話題書。ユーモアたっぷりのイラストと、妊娠・出産・育児の「奇妙だけど魅力的で面白い」エピソードが満載。51種の動物の親子が登場し、ほっこりとともにびっくりさせてくれる。
著者のマヤ・セーヴストロムさんは、スウェーデン・ストックホルムを拠点に活動するイラストレーター、作家、建築家。個性的な動物のイラストや本などで国際的に知られているという。
本書の原題は『Amazing Facts About Baby Animals』。動物の赤ちゃんの驚くべき事実、という感じだろうか。それに比べて、日本語版のタイトルはずいぶんシンプルだ。
人間の場合とおおきく異なり、動物の場合、「家族と長いあいだいっしょに暮らす赤ちゃん」もいれば、「とても早くにひとり立ちしなければならない赤ちゃん」もいるという。
「動物の世界は、さまざまな赤ちゃんと、そのお母さんやお父さん、そして家族の愛にあふれています。この本でご紹介するのは、そのほんの一部です」
たとえば、シャチの赤ちゃんは、大きくなってもお母さんや家族のみんなとずっといっしょに暮らすことがある。
一方、セレベスツカツクリという鳥の親は、卵をあたためない。地面に穴をほり、そこに卵をうみ、穴をしっかりうめてしまう。そのあとはなにもしない。卵からかえったヒナは、ひとりで生きていかなければならないのだ。
なんとむごいことを......と思うが、動物目線でこう書いている。
「わたしたちとおなじように、どんな動物も、赤ちゃんが元気でたくましく育つよう望んでいるのです」
本書に登場する51種の動物には、イルカ、ミツバチ、キリンなどなじみのあるものから、アマノガワテンジクダイ、アルプスサラマンダー、キバシコサイチョウなど一度にすんなり名前を言えないものまでいる。
本書はイラストがメインになっているため、文字情報は多くはない。ただ、原題に「Amazing」とあるように、どのページにも「え、そうなの?」という驚きと発見が潜んでいる。たとえばこんな感じだ。
「コウモリは、さかさまにぶらさがって赤ちゃんをうむこともめずらしくありません」
「シロワニ(というサメ)の赤ちゃんは、なんとお母さんのおなかのなかできょうだいを食べてしまうんだとか」
「タツノオトシゴは、お母さんがお父さんの袋(育児のう)に卵をうみつけるので、お父さんが赤ちゃんをうみます」
1種の動物につき2ページの構成。モノクロのイラストに、ひらがな多めの短文が添えられている。イラストの細やかな線描、つぶらな瞳が印象的だ。マヤ・セーヴストロムさんの描く動物たちは、みな愛嬌がある。
ここでは、なじみがあるだけに、エピソードに最も衝撃を受けた3種を紹介しよう。
まず、コアラ。ユーカリの葉はとてもかたく、消化するのがたいへん。そのため、コアラの赤ちゃんはさいしょにお母さんの「うんち」を食べる。これによって、ユーカリを消化するための微生物をもらうのだという。
コアラの赤ちゃん「わたしも食べていい?」
コアラのお母さん「もちろん。でもそのまえに、ちょっとやらなきゃいけないことがあるのよ......」
続いて、ウサギ。ウサギのお母さんは赤ちゃんをうむとき、自分の毛をつかってふわふわであたたかい巣をつくる。ところが、赤ちゃんがうまれると、お母さんは巣をでていってしまう。それは、赤ちゃんがほかの動物に見つからないようにするためだという。
ウサギの赤ちゃん「ママはどこ?」
ウサギのお母さん「ごめんね。でもママは行かなきゃならないの。でも、おうちはママの毛でいっぱいだから、ママがいなくてもさみしくないでしょ」
一見、信じがたい行動も、じつは赤ちゃんのためだとわかる。動物の親子間でくわしい説明がなされているとは思えないが、親心は赤ちゃんに伝わるのだろう。
最後にもう一つ、もはや魔法かというレベルのエピソードを。
「カッコウの親は、自分たちで子育てをしないんですって。カッコウのメスは、べつの種類の鳥の巣に、かってに卵をうみます」
カッコウは、なんと「かわりに子育てをしてくれる鳥の卵と、見た目がそっくりの卵」をうむことができるのだという。巣のもちぬしは、そうとは知らずにカッコウのヒナを育てているのだとか......。
マヤ・セーヴストロムさんは、「読者のみなさんへ」としてこんなメッセージも送っている。
「この本を手にとったみなさんが、楽しみながら新しいことを学び、動物の世界のすばらしい多様性に気づいてくださることを願っています」
本書は、動物はもちろん、アート、自然を好む人にとっても興味深いものだろう。親子で読んでも、小学生以上の子どもが一人で読んでもいい。イラストも文章も、著者のユーモアと動物への愛にあふれた図鑑となっている。
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