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2020年回顧4 「中国一強」はありうるのか?

コロナ後の世界は中国一強か

 コロナ禍で揺れた2020年。中国は、その主役だ。しかし、立ち位置は大きく変わった。年頭にはコロナウイルスによる新型感染症の勃発で危機的状況に陥っていた。しかし短期間で危機を克服し、年度の途中からは経済活動を盛り返した。そして、「中国一強」がささやかれるまでに変身したのだ。

巨大都市を封鎖

 改めて年頭の状況を振り返ってみよう。謎の新型肺炎の発生地とされる人口1000万人超の武漢市はあっといまに都市封鎖。中国政府の強硬措置は主要都市に広がり、在留の外国人は大慌てでそれぞれの自国に戻った。中国全体がまるで戒厳令下のようになって、経済もマヒ。日々増え続ける死者や感染者に人心も大きく動揺した。 中国にとっては近年、最大級の試練となった。一部では習近平体制の崩壊すら予測された。この段階では日本を含め先進諸国は、対岸の火事、という感じだった。

 ところがどうだろう、コロナはその後、全世界に飛び火し、どんどん拡大、今も収束の気配が見えない。一方、火元の中国は、いち早くコロナを抑え込み、ほぼ「平常運転」に戻ってしまった。

 BOOKウォッチで紹介した『コロナ後の世界は中国一強か』(花伝社、7月刊)は、かなり早い時期に「中国復活」を予想した一冊だ。著者の矢吹晋・横浜市立大学名誉教授は、中国研究者としてよく知られた人だ。

「実戦」で成功

 矢吹さんは二つの角度から、中国政府の対応ぶりに注目していた。一つは「軍事的側面」、もう一つは「最先端テクノロジー」だ。以下のように要約している。

 「中国には細菌戦への備えがあった。二つの野戦病院を短期で建設し、武漢封鎖を断行。身分証明カードと監視カメラによる住民監視。位置情報も把握。中国は二か月余りの断固たる統制措置でコロナを抑えた」

 1月末に着手し、わずか6~10日間で武漢に完成した2500床の野戦病院には、全国から4万2000人の医療スタッフが動員された。うち3000人が人民解放軍の防疫部隊に属する要員だったという。著者は「事前に用意されたマニュアルなしにはとうてい不可能な突貫工事と動員であり、中国軍の生物兵器作戦に対する警戒心の一端が知られる」と書いている。大方の日本人にはピンとこないかもしてないが、著者は、中国軍は日中戦争時の731部隊などによる化学兵器・生物兵器による秘密作戦を忘れていないと指摘する。

 中国の住民監視の徹底ぶりについては、西側諸国から「人権侵害」の声も上がった。しかし、中国は方針を変えなかった。「人権と生存権を比べて、どちらが必須であろうか」「人権制限を甘受しつつも生存戦略を第一に置くのは当然ではないか」というのが中国側から聞こえてくる声だったという。

 要するに「軍事管制」。他国には「模倣できないシステム」だ。その功罪はともかく、今回のコロナ対応で、「これが実践(あるいは実戦)において成功した事実は誰もが認めざるを得ないのではないか」と著者は記す。

「内戦」とコロナが二重写し

 秋口に入ると、国際経済の世界で中国の一人勝ちを予想する報道が相次いだ。国際通貨基金(IMF)は2020年10月13日、今年の経済成長率の見通しを発表、先進諸国では中国のみがプラス成長で1.9%。世界全体ではマイナス4.4%。米国はマイナス4.3%、日本はマイナス5.3%、ユーロ圏はマイナス8.3%の予測だ。

 日経新聞は10月19日の夕刊で、7~9月の中国のGNPは前年同月比4.9%増と一面トップで伝えた。投資や輸出がけん引しているという。

 中国のしたたかさを伝えた一冊としては、『中国共産党と人民解放軍』 (朝日新書)がある。著者の山崎雅弘さんは戦史・紛争史研究家。20世紀を「戦い」の中で生き抜いてきたのが、中国だというのだ。

 昨年11月に刊行された同書にはもちろん新型肺炎は登場しない。しかし、読んでいると、中国が幾度となく経験してきた近年の戦争、とりわけ「内戦」とコロナが二重写しになる。対応に失敗すれば民心を失い政権が危うくなる。「共産党」と傘下の「人民解放軍」にとっては、絶対に勝たなければならない戦いだ。

 同書「第二章」「第三章」は毛沢東と蒋介石について詳述している。よくいえば、中国現代史を牛耳った両雄ということになる。正直いって二人とも大変な策士であり、権謀術数にかけては引けを取らないということがよくわかる。

「三国志」の再現

 『傀儡政権――日中戦争、対日協力政権史』 (角川新書)は、戦前の日本が中国につくった多数の「傀儡政権」全般について論じている。満州国以外にも主要なもので5つ。日本に協力した中国要人の中には、そうすることが最終的に中国のためになると確信して行動した人が少なくなかったことが指摘されていた。

 例えば汪兆銘政権(南京)。日本側の指示のもとに政策を実行したが、太平洋戦争に参戦して日本に協力することと引き換えに、長らく懸案となっていた租界の回収と治外法権の撤廃を実現させた。中華民国臨時政府(北京)の王克敏は日本の指示に唯々諾々とせず、しばしば意見衝突したという。傀儡国家といっても一筋縄ではいかない。日本に全面協力するように見せかけて、中国の利益を守ろうとする中国人としての母国愛や矜持も見え隠れする。のちに彼らの多くは「漢奸」として処断されたが、「負のレッテル」を貼るだけでは見えてこないものがあるというわけだ。

 上述の毛沢東、蒋介石、そして『傀儡政権』に登場する汪兆銘らの対日協力派・・・。中国現代史とは、まさしく20世紀における「三国志」の再現だったということが良くわかる。その延長線上に、今日の中国がある。

オーストラリアに進出

 『超限戦――21世紀の「新しい戦争」』(角川新書)は中国の軍人二人の共著。1999年刊。9.11テロを予言している内容だとして、のちに世界的に話題になり、訳書は日本の古書市場で高値を付けていたが、新書版で今年再刊された。「21世紀の戦争は、すべての境界と限度を超えた戦争で、これを超限戦と呼ぶ」というのが同書の基本認識だ。

 コロナ禍を予言するようなくだりもある。「新生物・化学兵器などは新概念の兵器で、通常言うところの兵器と大きな違いがある。しかし、これらの兵器もやはり軍事、軍人、武器商人とかかわる、直接的な殺傷を目的とする兵器だ」と強調している。

 先の『コロナ後の世界は中国一強か』には、「コロナ禍以後の世界経済で米中二極構造は変わらないが、中身は『米国主導から中国主導』に大きく転換するだろう」という見通しも出ていた。そうなるかどうかはわからないが、中国が過去に学びつつ、そうなるための準備を重ねているであろうことは、BOOKウォッチ紹介本からもうかがえる。

 『目に見えぬ侵略――中国のオーストラリア支配計画』(飛鳥新社)によれば、オーストラリアではすでに港や送電線の一部が中国企業の手中にある。中国からの移民や留学生が急増、2018年現在で130万人を超え、全人口の5.2%を占めているという。『チャイナスタンダード』(朝日新聞出版)は、サイバー空間、開発協力、生命科学、メディア、マネー、海洋進出などで、「中国式」が世界各地に進出するさまを描いている。『日本の「中国人」社会』(日経プレミアシリーズ)によれば、この20年で日本で暮らす中国人は約3倍に膨れ上がり、100万人に近づいているという。富裕層・エリートが増えているそうだ。中国の進学熱や受験競争の激しさはよく知られているが、同書には、「日本の中学3年生は、中国の小学校4年生レベル」だという話も出ていた。



 


  • 書名 コロナ後の世界は中国一強か
  • 監修・編集・著者名矢吹晋 著
  • 出版社名花伝社
  • 出版年月日2020年7月25日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・174ページ
  • ISBN9784763409355
 

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