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長井短さんのパンチが効いたエッセイ集!

内緒にしといて

 「演劇モデル」の長井短(ながい・みじか)さん。著者名だと気づかず一瞬見落としてしまったが、一度見たら忘れないであろうお名前だ。由来が気になりWikipediaをのぞいてみると、もともと落語好きという長井さん(名字は本名と同じ)。「長井短」という芸名は、どうやら古典落語の演目「長短」から「勢いでつけた」ようだ。

 そして、この印象的な目元。どこかで見覚えがあるような......と思ったら、2019年放送のドラマ「家売るオンナの逆襲」(日本テレビ系)で評者は見ていた。お名前までチェックしていなかったが、長井さんのアンニュイな雰囲気は記憶に残っていた。

 長井さんの初の著書となる『内緒にしといて』(晶文社)は、「読者の自尊心を研ぎ澄ますエッセイ集!」となっている。本書は20〜30代女性の支持を集める、従来のモテテクや婚活から自由なフリースタイル恋愛ウェブメディア「AM」の連載「長井短の内緒にしといて」(2018年2月~2019年12月掲載)を大幅に加筆・修正したもの。

 恋愛、モテ、呪いの言葉、マウンティング......。日々やり過ごしてしまいがちな違和感をどうしたらいい? 今の自分のまま抱えている違和感をどうしたら取り除ける? などについて、長井さんと「ファミレスで話している」気分で読むことができる。

文章にパンチを効かせる「演劇モデル」

 長井短さんは、1993年生まれ。東京都出身。「演劇モデル」と称し、雑誌、舞台、バラエティ番組、テレビドラマ、映画など幅広く活躍。読者と同じ目線で感情を丁寧に綴りつつも、パンチが効いた文章も人気。近年の主な出演作に「真夏の少年~19452020」、「妖怪シェアハウス」、「家売るオンナの逆襲」など。執筆業では「AM」のほか、「yom yom」で「友達なんて100人もいらない」、「幻冬舎plus」で「キリ番踏んだら私のターン」を連載している。2019年、俳優の亀島一徳さんとの結婚を報告した。

 本書は「第1章 みんなちがう、みんなかわいい」「第2章 あの人を好きって決めたのは私」「第3章 呪いは死んだから」「第4章 女の子だから何?」「第5章 私の、私による、私のための」の構成。29本のエッセイが収録されている。

 このほか、撮り下ろし写真(一部、夫が撮影)、図解でわかる! スタイリング・ヘアメイク(切り取って折ると「ミニ本」になる)、長井短のなりたい職業ベスト3(過ごしてみたかった夢のある人生を書いている)、写メ日記、なつかしのプロフィール帳など、文章+αで読者を楽しませてくれる。

 「パンチが効いた文章」ということで、期待して読み始めた。自己紹介からも飾らない人柄が伝わってくる。

 「どうも、モデルと女優をやっている長井短です。『モデルと女優』って、やばい挨拶ですね。『さぞキラキラした人生を送ってるんだろうな』と思われてしまうかもしれませんが、全くそんなことないです」

「その時その時に感じていた」

 長井さんがコラムを書き始めたのは24歳の頃。当時は「今よりもっと仕事がなくて、彼氏もいなくて、人間として、あんまりいい状態ではなかった」と、まえがきで振り返っている。

 「でも、だからこそ持てた視点があって、そのおかげで書けたことも沢山ある。それは全然可愛らしかったりキラキラしたタイプのものではない。この本には私の性格の悪さが詰まっていて......」

 早速パンチ効いているな、と思ったところで「ちょっと待って~! タイムタイム!」と中断。なんでも、いったん書き出したものの、そもそもまえがきに何を書けばいいのかわからず、まえがきの意味をググってみたという。そして、こう仕切り直す。

 「この本はたぶん、私長井短の心の中というか、その時その時に感じていた嬉しさだったり悲しさだったり怒りだったりが、主に恋愛の観点から書かれています」

 重要なのは「その時その時に感じていた」というところ。本書には、約2年半分の長井さんが詰まっていて、それは一人ではなく、3万人くらいいるという。「連続しているけど同じではなくて、何か起きても起きなくても、私は変わり続けている」としている。

 「矛盾した、沢山の自分を丸ごと愛して生きていきたいと思って、この本を作りました。今の自分とは相いれない一年前の自分のことも、未来にちゃんと引きずって生きたいのです。今までの私と、今の私が混ざり合ったこの本のどこかに、いつかのあなたがいますように」

「そんなことより私だろ!」

 29本のエッセイのうち、ここでは「『悲しいのに笑うのそろそろやめたい』私は私が守りぬこうよ」から。

 長井さんは、外国のテレビ番組で「意見はケツの穴と同じ。誰にでもある」と聞いて以来、この言葉にかなり救われているという。人に何を言われても「あ、この人にも肛門はあるからとやかく言ってくるのも当然ですな」と思えるようになった。

 年を重ねるにつれて自分も周りも大人になり、露骨に攻撃的なことを言う人は減った。「意見はケツの穴~」という魔法の言葉もついている。しかし、それでもなお、「ダメージを食らうことはあるのだ」。

 たとえば、ある人たちは長井さん(身長172cm)を「巨人じゃん~」と笑う。ちょっと変わった服装をしていると「宇宙人かよ~」と笑う。

 長井さんは「人にどう思われるかなんて気にせずに、自分の着たいものを着て、好きなように振る舞いたい」「好きでもない人のために無理して笑うなんて、無駄だ」と本心では思っているが、その場を取り繕うために笑ってしまう。もちろん「巨人」と言ってくる人たちは嫌い。しかし、もっと嫌いなのは「嫌なことを言われているのに笑って流す自分自身」と気づいた。

 「本来一番の味方であるはずの自分自身が、自分以外の側に寝返った瞬間を感じるのは、やっぱりきつい」

 「巨人かよ」と笑われたら「背が高いんだ」とはにかみたい。「宇宙人かよ」と言われたら「スター・ウォーズが好きなんだ」と笑いたい。「ノリが悪い」「堅物」と思われることがあったとしても「それが一体なんだっていうんだ」と、ボルテージが上がっていく。

 「そんなことより私だろ! 私の使命はまず私を大切にすること! 愛する人を守るのはそのあとに初めてできること! わかったか!」

 最後に、長井さんが「本」に抱くイメージが印象的だったので紹介したい。

 「本には、裸っていうイメージがあって、他のどんな作品よりも、作者が完全な裸ん坊になるのが本だと私は思っている。自分の考えが、かなり直接、あまり多くの人を介さずに物体になるからだ」

 「コラムを書くたびに服を一枚脱いでるつもり」という長井さん。ここまではOK・ここからはNGという線引きは、ほぼ見当たらない。あらゆる感情をだいぶストレートに書いている。本書には3万人くらいの長井さんがいるとあったが、いろいろな自分がいていいようだ。パンチが効いた本書を読めば、日々の違和感に埋もれていた、自分が大事にすべきものが見えてくるだろう。



 


  • 書名 内緒にしといて
  • 監修・編集・著者名長井 短 著
  • 出版社名株式会社晶文社
  • 出版年月日2020年10月30日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・208ページ
  • ISBN9784794971982
 

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