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アラフォー女子、これでもいいのだ!

これでもいいのだ

 ジェーン・スーさんの本書『これでもいいのだ』(中央公論新社)の表紙は、書店の平積みのなかで個性を放っていた。バカボンのパパの口癖を思わせるゆるいフレーズと、大人の余裕を感じさせる表情で「いいね」のポーズをとるジェーン・スーさんのイラストに目を奪われた。

 「思ってた未来とは違うけど これはこれで、いい感じ」――。さらに、この帯のコピーが刺さった。「思ってた未来とは違う」と感じ、挫折感や敗北感、焦燥感を抱いているのは自分だけではないのか。「これでもいいのだ」と背中を押してくれる予感とともに本書を読みはじめた。

読者の興味を惹き、読ませる

 ジェーン・スーさんは1973年、東京生まれの日本人。大学卒業後、31歳までレコード会社の宣伝部に勤務。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMCを務める。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で第31回講談社エッセイ賞を受賞。

 インスピレーションを得て買い求めた書籍でもあたり・はずれはある。しかし、読みはじめて間もなく本書はあたりだと確信した。ジェーン・スーさんの文章はなんとも歯切れが良く、痛快だ。ユーモアセンスが抜群で、読者は何度も吹き出すことになるだろう。また、鋭い洞察力と巧みな言葉選びにより、何気ない日常の一コマを珠玉のエッセイに昇華させている。

 本書は4章からなり、66篇のエッセイが収録されている。

第1章 女友達は、唯一元本割れしない財産である
「プレミアム豚の夜」「『冴えない女の会』」ほか

第2章 中年女たちよ、人生の舵をとれ
「私の私による私のためのオバさん宣言」「私の種は芽吹かない?」ほか

第3章 世の中には物語があふれている
「ゾンビとピーナッツ」「『性格が良い』とはどういうことか」ほか

第4章 大人だって傷付いている
「脳のメモリとスマートフォン」「勉強しておけば良かった」ほか

 エッセイのタイトルとともに、冒頭の一文がどれもインパクトがある。読者の興味を惹き、読ませる文章とはこういうものかと思った。

なぜ「楽園」住まいを始められたか?

 ジェーン・スーさんは独身だが、パートナー氏と同居している。試行錯誤と紆余曲折を経て、現在は家事がパートナー氏の担当、稼ぎ手がジェーン・スーさんの担当という。

 エッセイのテーマは、既婚・未婚、女友達、80代の父親、体型の変化、音楽、空想癖......など幅広く、ジェーン・スーさんの関心の赴くままに自由に綴られている。ここでは、特に多くの方が共感できるだろう「時間」と「勉強」に関する言葉を紹介しよう。

 「ティーンエイジャーだったころ、私たちは『この時間は永遠に続く』と、当然のように思っていた。時間はどこからともなく勝手に押し寄せ、目の前を無限に流れていくようだった。......いま、手持ちの時間はまごうことなく有限で、なんとか捻出しなければならないものになった」 (「プレミアム豚の夜」)
 
 「『知っていて当然』とされることが、波のように次から次へと押し寄せてくる。今日の今日まで、私はサーフィンのようになんとか波を乗りこなしてきたが、四十代半ばにして、ついにボードから落っこちた。世間の荒波に、もう揉まれすらしない。ドボンと落っこちて、あとはグングン沈むだけ」 (「脳のメモリとスマートフォン」)

 時間の感じ方の変化だったり、自分の知識不足への反省だったり、多くの方が似たような心境になったことがあるのではないだろうか。これらの言葉は、ジェーン・スーさんと同世代の40代女性はもちろん、周辺の世代の女性にとって共感と納得の連続と思われる。

 最後に、ジェーン・スーさんは「悲観的になろうと思えばどこまででもなれる」としたうえで「私が失ったものは、記憶力と体力ぐらいだ」と楽観的に構えている。日々の疲れは取れないものの、ようやく手に入れた「楽園」に住んでいるという。では、なぜ「楽園」住まいを始められたか?

 「これはもう完全に加齢のおかげ。若者よ、加齢はいいぞ。なぜなら、あきらめがよくなるから。楽しいのは、私が変わったからだ。......『思ってたのと違う......』と狼狽えるのは、若い頃と変わらない。しかし、そこから『まあいいか』へ着地するスピードがべらぼうに速くなる」

 「思ってた未来とは違う」と感じたり、「もう『オバさん』」とやや自虐的になったり、着実に重ねていく年齢と反比例して自信がすり減っていく気がしていた。しかし、本書はそんなもやもやを振り払い、「私たち、これでもいいのだ!」と奮い立たせてくれる。若い方にもオススメだ。

 本書に収録されたエッセイは、「婦人公論」(2016年2/9号~19年11/12号)掲載の連載「スーダラ外伝」、日本経済新聞(2017年7月8日~12月16日)掲載の「プロムナード」を大幅に加筆・修正のうえ再構成したもの。

  • 書名 これでもいいのだ
  • 監修・編集・著者名ジェーン・スー 著
  • 出版社名株式会社中央公論新社
  • 出版年月日2020年1月10日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判変型・256ページ
  • ISBN9784120052576
 

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