2018年に広島県、岡山県などで大きな被害を出した西日本豪雨。また昨年(2019年)は10月24日から26日にかけて、関東地方から東北地方の太平洋岸を中心に記録的な大雨の影響で、土砂災害、浸水害、河川の氾濫が発生し、千葉県や福島県を中心に人的被害があったほか、停電や断水等ライフラインへの被害が発生した。
こうした自然の猛威からどうやって命を守るか、という目的で書かれたのが、本書『平井信行の気象・防災情報の見方と使い方』(第一法規)だ。
平井さんはテレビの天気予報でおなじみの気象予報士。本書は、子どもの命を守るためにはどうしたらよいのか、とっさの極端な気象に遭遇したときにどのように行動すればよいのか、具体的な事例をあげて説明している。
本書の構成は以下の通り。「第1章 防災情報の見方・使い方-気づきを得る」「第2章 気象情報から気づく前兆-感度を高める」「第3章 自然災害から身を守る方法-瀬戸際の判断」「第4章 自然災害の事例」「第5章 防災教育の実践例」「第6章 コラム」
第1章はクイズ形式になっている。たとえば、気象庁がホームページで発表している土砂災害、浸水害、洪水の危険度分布についての問題。
危険度の色が何色になったら避難開始? ① オレンジ色 ②うすい紫色 正解は②うすい紫色、だ。
危険度のレベルに応じて5段階に色分けしている。カラーは危険度の高い順に、濃い紫色、うすい紫色、オレンジ色、黄色、白色だ。うすい紫色は非常に危険なレベルで、自治体が発表する「避難勧告」にあたる。濃い紫色は自治体が発表する「避難指示」にあたる。その時点で避難の完了をしていなければならない。
近年、「猛烈な雨」の回数が増えている、と指摘する。気象庁の統計がある1976年から2018年までの期間において、1時間に80ミリ以上の猛烈な雨が降った回数は、統計期間の最初の10年間の年平均発生数の約14回と比べて、最近の10年間は約1.6倍の約23回になっているという。
第2章では、天気図など気象情報から、危ないサインに気づく特徴をまとめている。最近よく聞くようになった、大雨をもたらす「線状降水帯」。2017年7月、九州北部豪雨が発生したときの天気図をもとに、梅雨前線付近ではなく、前線より南の100~200キロ付近で発生すると指摘。「梅雨前線が日本海側に北上したら、予想外の突発的な集中豪雨のおそれがあります」と警告している。
このほかに「台風の東側~竜巻が発生しやすい」「夏の台風は"迷走"」「台風+前線=大雨」「スピード台風は"風台風"」「南岸低気圧が発達~冬から春先は太平洋側の大雪」など、覚えておきたい、気象の知識を解説している。
第3章には、瀬戸際の判断として、「早めの水平避難」、しかし周囲が悪化した場合や夜間の避難はかえって危険なので、2階以上へ「垂直避難」。「水平避難」と「垂直避難」の分かれ目は、「膝まで水が来たら『水平避難』しない」と書いている。
しかし、第4章の自然災害の事例では、気象庁が「平成27年9月関東・東北豪雨」(2015年)と命名した記録的な大雨の際は鬼怒川が氾濫後に、大雨の特別警報が発表されたことを重く見ている。そして「『垂直避難』は、最悪のケースでの避難方法」として、あくまでも、早めに安全な避難所への「水平避難」を呼び掛けている。
第5章では、平井さんが実際に行っている防災教育について説明している。自分の夢を実現するには、まず「自分の命を守る」ということを理解してもらうことが大切だという。平井さんが住む埼玉県春日部市を例に防災教育の構成を示している。
1 あなたの夢は? 夢の実現のために、自分の命は自分で守る 2 あなたの地域の天気の特徴は? 自分の住んでいる地域の天気や気象の言葉を学ぶ 3 あなたの地域では昔、どんな災害があった? 自然災害碑や地名などから、自分の住んでいる地域の過去の気象災害を知り、気象災害は繰り返し起こることを学ぶ 4 気象災害から身を守るためにはどうしたらいい? とっさの避難法、気象情報タイムライン、ハザードマップなどでの避難へ備える方法を学ぶ
学校での防災教育を待たずとも、家庭で親から子どもに伝えてもいい内容ではないだろうか。
本稿では、おもに大雨について触れたが、本書では地震や津波、台風、高温、低温など気象全般を取り上げている。平井さんがテレビの天気予報に登場するのは短い時間だが、その裏にはこうした蓄積があることを知り、ますます信頼感が増したような気がする。
ちなみに平井さんは1967年生まれ。熊本県八代市生まれ。東京学芸大学教育学部で気候学を学び、日本気象協会に入職。1994年第1回気象予報士試験に合格。2003年に独立し、現在はウイング常務取締役気象情報部長として防災気象キャスターの育成にも力を入れている。
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