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「改元」の内幕に迫り、「水害」を警告した    2019年BOOK回顧(2)

令和誕生

 何年かたって2019年を振り返った時、思い出すのは「改元」と「台風水害」になりそうだ。改元は4月に新元号発表、5月から令和がスタートした。秋に入ると、台風が立て続けに襲来し、近年まれにみる被害を引き起こした。その結果、即位の祝賀パレードが延期になるなど、改元の式典にまで影響を与えることになった。「BOOKウォッチ」掲載本を通してこの一年を振り返る。

「毎・読・朝」がそれぞれ改元の内幕本

 出版物では「改元」について、毎日新聞、読売新聞、朝日新聞がそれぞれ単行本を出した。平成の天皇陛下が生前退位の意向を示されてからの「舞台裏」や「内幕」を、再取材も加えて克明に掘り下げている。

 毎日は早々と6月に『令和 改元の舞台裏』(毎日新聞出版)を出した。すでに2011年末から改元取材をスタート、12年2月には政府側の裏舞台にいた重要人物を突き止めていたことを明かしている。この人物がたった一人で、元号案を専門の学者たちに依頼し、出てきた案を自身の古典籍の知識をもとにチェックする大役を果たしていた。残念ながら18年5月に、結果を見届けることなく亡くなっていた。

 読売は10月に『令和誕生―― 退位・改元の黒衣たち』(新潮社)を出した。こちらは元号をマスコミにスクープさせないという官邸の保秘態勢についての記述が実に詳細だ。また、元号案を審議する有識者による懇談会で、たまたま日本新聞協会長をしていた自社の最高幹部が、平成、令和と続けて、重要な役回りをしていた可能性があるかもしれないことを、堂々と書いていた。

 朝日も10月に『秘録 退位改元――官邸VS.宮内庁の攻防1000日』(朝日新聞出版)を出した。こちらは社会部の取材データが相当含まれ、宮内庁や天皇サイドの動きが詳しかった。16年7月に「生前退位」のスクープをしたのはNHKの社会部だが、その直前に、官邸が報道を差し止めるため、NHKに圧力をかけようとしたという極めて興味深い話も出ていた。

 三社の本をすべて読むと、「生前退位」による異例の改元が、国民が受け止めているよりもはるかに大変な出来事だったということが良くわかる。

「命を守る行動を」

 9月から10月は台風が立て続けに首都圏や東日本を襲った。台風19号では約100人の犠牲者が出た。関東から東北まで約70の河川が決壊し、8万棟余の住宅が被害にあった。土砂被害も20都県で800件を超えたという。特に目立ったのは、車で移動中に動けなくなり、閉じ込められて亡くなったケースが多発したこと。様々な点で、豪雨災害に対する備えの不十分さを見せつけた。

 こうした水害に対する国土の脆弱性は、『命を守る水害読本』(毎日新聞出版)や『宅地崩壊――なぜ都市で土砂災害が起こるのか』(NHK出版新書)などで警告されていた。

 今回の台風被害では「命を守る行動を」ということがテレビなどで盛んに呼びかけられた。しかし、具体策が今一つはっきりせず課題を残した。

 7月に刊行されていた『水害列島』(文春新書)は、豪雨の中で避難することの危険性を強く指摘していた。雨合羽など何の役にも立たない。すぐに全身びしょぬれになり、5~10分で悪寒が始まって、体温を奪われる。滝に打たれているような状況なので、同行者との会話もできないという。

 「雨が降り出し危険になってから発令される避難情報!」「避難行動自体が危険な状態になってから『逃げろ!!』と言っているのです。これでは遅すぎるとは思いませんか?」と著者は疑問を投げかけている。本書から多数の教訓が読み取れる。

 被害のひどさもあって10月22日に予定されていた即位の祝賀パレードは11月10日に延期された。天皇陛下は皇太子時代から、水問題をライフワークとされていた。4月には『水運史から世界の水へ』(NHK出版)を出版したばかり。その「第7章」では「水災害とその歴史 ―日本における地震による津波災害をふりかえって」が語られていた。

 偶然とはいえ即位の年に、水害と祝賀儀式がぶつかってしまった。12月末には両陛下が被災地を訪問すると報じられている。

  • 書名 令和誕生
  • サブタイトル退位・改元の黒衣たち
  • 監修・編集・著者名読売新聞政治部 著
  • 出版社名新潮社
 

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