漫画家・イラストレーターの細川貂々さんといえば、パートナーの闘病を描いたコミックエッセイ『ツレがうつになりまして。』(幻冬舎文庫)が映画化、ドラマ化もされて、有名になった人だ。最近は自身の生きづらさに向き合い、精神科医の水島広子さんとの共著「それでいい。」シリーズが10万部を超えるロングセラーになっている。シリーズ3作目が本書『夫婦・パートナー関係も それでいい。』(創元社)だ。
本書の刊行にあたり、対人関係療法を専門とする水島さんは「自分にはパートナーがいないと思っている人を、遠ざけてしまわないだろうか」ということを一番心配した、とまえがきに書いている。でも、特定のパートナーがいるにせよいないにせよ、自分について「今はこれでいい」と思えることが、すべてのスタートになるという。だから、タイトルの「夫婦・パートナー」の文言を気にせずに本書を読んでもらいたい。
細川さんの漫画に水島さんが相談役として登場する漫画形式なので、読みやすい。いきなり、「世の中で一番 夫がキライ」という細川さんの知り合いの話が出てくる。そこから、細川さんは「パートナー」って何だろう? と考え始め、水島さんのクリニックに向かう。
夫婦であり続ける意味やパートナーの重要性について、水島さんがコラムで解説する。
中年既婚女性の場合、うつ病になる前に最も多く見られたのが「配偶者との不和」だという。水島さんは夫婦・パートナーは「重要な他者」だと説明する。最も身近な人でありながらも実はよく知らないことも多い。また、配偶者が大嫌いという人もいるので、「大切な他者」という表現もあてはまらない。「重要な他者」だけれども、「大切な人」とは思えない人もいるからだ。
この後、第2章で具体的に夫婦・パートナー関係を対人関係療法で改善する提案をしていく。
良いコミュニケーションを取るには、出来るだけ一緒にいる時間を作る、問題を次の日に持ち越さない、夫婦でも他人だと思って相手を尊重する、子供を言い訳にしない、などだ。
また、自然のままで暮らしていると、どんどん関係性が密度の薄いものになっていくので、時にはスキンシップも有効だという。
冒頭の配偶者がキライという場合、対人関係療法では、配偶者が嫌いというレベルにとどまらずに「相手に何をしてほしいのか」という「役割期待」を最初に整理する。夫婦が同席する対人関係療法では最初に次の三択の質問をする。
●このままでよいのか ●変化を起こすためにお互いに努力するか ●今すぐ別れるか
多くは第二の選択肢を選ぶという。
さらに第3章、第4章では、結婚の意味を考える。水島さんは「結婚はパートナー関係の一つのパターン」に過ぎないと説明する。だから、パートナーを結婚相手や恋人に限定しないのも一つの方法だという。
趣味が同じ人、話が合う人、相談できる人、あるいは趣味そのもの、ペットだっていい。
最終的には「自分がパートナー」でもいい。自己肯定感を持つことが幸せにつながるのだ。
私事で恐縮だが、それぞれの事情があって長く別居している評者の場合、水島さんの「重要な他者」という夫婦関係の説明は、すとんと頭に入った。「大切な他者」にまでグレードアップするには、お互いに何をすればいいのか? そんなことを考えた。
また、離婚訴訟からうつ病を悪化させ自死した先輩のことも。本書では離婚などによりパートナーを失ったときの対処法も紹介している。まずは自分の日常生活を取り戻すことだと。
細川さんと水島さんのこれまでのシリーズには『それでいい。自分を認めてラクになる対人関係入門』『やっぱり、それでいい。人の話を聞くストレスが自分の癒しに変わる方法』(いずれも創元社)がある。
水島さんは慶應義塾大学医学部卒、同大学院修了の医学博士。2000年から2005年、衆議院議員として児童虐待防止法の抜本改正に取り組んだ。現在は対人関係療法専門クリニック院長、慶應義塾大学医学部非常勤講師(精神神経科)。
BOOKウォッチでは水島さんの著書『「毒親」の正体』(新潮新書)を紹介している。
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